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『京洛の森のアリス III』望月麻衣――立ち読み

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

別冊文藝春秋 電子版24号

文藝春秋・編

別冊文藝春秋 電子版24号

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「別冊文藝春秋 電子版24号」(文藝春秋 編)

 その季節ごとの花を観られるのが楽しみではあったが、春香がさらに好きな道を選んでいたのは、素敵なことだと感じた。

「薔薇の専門店ってことで、花びらを乾燥させてポプリにしたものや、薔薇のお茶やお酒、ローズオイルに香水、ローズバスソルトなんかも作っているの。薔薇って、売れ残っても……売買しているわけではないから、この表現はおかしいんだけど、残ってしまっても、色んな活用ができるのよ」

 春香の言葉通り、薔薇のポプリ、ローズバスソルト、香水やオイルが棚に並んでいる。

 どうやら、たくさんの花を扱っていく中で、残ってしまった花々が枯れて捨ててしまわなければならないのが、春香には堪えたのかもしれない。

 薔薇ならば、使い勝手が良いのだろう。

「あとは薔薇を生けるのにぴったりの花瓶だったり、薔薇のアクセサリーなんかも揃えているの」

 と、春香は愉しげにチェストの上に視線を移す。

 薔薇をモチーフにした品の数々は、まさに薔薇の専門店であり、ありすは感嘆した。

「春香さん、私は一瞬他の花がないのを残念に思ってしまったんですけど、薔薇の専門店、すっごく素敵です」

 力強く言ったありすに、春香は「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。

「おかげで、『ローズセレクト』にしてから、お客さんも増えて。毎日薔薇を求めてくれる方もいるのよ。その方は少し離れたところに住んでいるから、毎朝配達してもらってるんだけど」

「どこのお客様ですか?」

「『ありす堂』さんでも馴染みの作家先生よ。洛南のマダムさん」

 その言葉に、ありすと蓮とナツメは納得して、あー、と声を上げながら、頷く。

「『月の見えない夜に咲く花』、私も大ファンなの。続編、楽しみにしているわね」

 と、蓮が編集者であることを知る春香は、顔を覗いてふふっと笑った。

「おう。今、がんばってブラッシュアップしてもらってるよ。次巻は見せ場も多いし、編集者としても力が入っているから」

 と、蓮は片手を上げる。

「そういえば、蓮君、正式に王室でのすべての権利を放棄したって、今や大変な騒ぎねぇ」

「まー、そのうち、落ち着くだろ」

 蓮は、気にも留めていないように言う。

「でも、私、不思議だったの」

 そう切り出した春香に、ありすは、なんだろう? と視線を合わせた。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版24号
文藝春秋・編

発売日:2019年02月20日

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