その季節ごとの花を観られるのが楽しみではあったが、春香がさらに好きな道を選んでいたのは、素敵なことだと感じた。
「薔薇の専門店ってことで、花びらを乾燥させてポプリにしたものや、薔薇のお茶やお酒、ローズオイルに香水、ローズバスソルトなんかも作っているの。薔薇って、売れ残っても……売買しているわけではないから、この表現はおかしいんだけど、残ってしまっても、色んな活用ができるのよ」
春香の言葉通り、薔薇のポプリ、ローズバスソルト、香水やオイルが棚に並んでいる。
どうやら、たくさんの花を扱っていく中で、残ってしまった花々が枯れて捨ててしまわなければならないのが、春香には堪えたのかもしれない。
薔薇ならば、使い勝手が良いのだろう。
「あとは薔薇を生けるのにぴったりの花瓶だったり、薔薇のアクセサリーなんかも揃えているの」
と、春香は愉しげにチェストの上に視線を移す。
薔薇をモチーフにした品の数々は、まさに薔薇の専門店であり、ありすは感嘆した。
「春香さん、私は一瞬他の花がないのを残念に思ってしまったんですけど、薔薇の専門店、すっごく素敵です」
力強く言ったありすに、春香は「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。
「おかげで、『ローズセレクト』にしてから、お客さんも増えて。毎日薔薇を求めてくれる方もいるのよ。その方は少し離れたところに住んでいるから、毎朝配達してもらってるんだけど」
「どこのお客様ですか?」
「『ありす堂』さんでも馴染みの作家先生よ。洛南のマダムさん」
その言葉に、ありすと蓮とナツメは納得して、あー、と声を上げながら、頷く。
「『月の見えない夜に咲く花』、私も大ファンなの。続編、楽しみにしているわね」
と、蓮が編集者であることを知る春香は、顔を覗いてふふっと笑った。
「おう。今、がんばってブラッシュアップしてもらってるよ。次巻は見せ場も多いし、編集者としても力が入っているから」
と、蓮は片手を上げる。
「そういえば、蓮君、正式に王室でのすべての権利を放棄したって、今や大変な騒ぎねぇ」
「まー、そのうち、落ち着くだろ」
蓮は、気にも留めていないように言う。
「でも、私、不思議だったの」
そう切り出した春香に、ありすは、なんだろう? と視線を合わせた。