━━「憲法制定」を題材に選んだきっかけを教えてください。
「日本国憲法の成立過程を小説として描くのは面白いんじゃないかと考えたんです。
その過程は、勝者と敗者との軋轢や、国家の伝統文化や法秩序についての見解の対立、一日も早く独立を勝ち取るために憲法を成立させようという目標と、それに対する人々の思惑や利害による阻害など、小説にふさわしい感情的葛藤に満ちていると思ったのです。
もう一つは、本が売れなくなっている時代に、小説が得意とする方向を極めることで読者に届く可能性が出てくるのではないか、と。
それは『言葉』です。憲法というのは私たちが暮らす世界を規定する言葉。社会の制度の根幹にあるものです。日本を取り巻く環境は、目まぐるしく変わっていきますが、70年以上も前に作られた憲法が、いろんな形で関わっています。その憲法を考えることが、今の日本を、そして世界を考えることに繋がるのではないか、という思いもありました」
━━タイトル「ゴー・ホーム・クイックリー」が印象的でした。作中に、吉田茂(当時外相、後に首相)が佐藤達夫に語る場面がありますね。
《GHQとは何の略だか知ってるかね? ゴー・ホーム・クイックリーだ。『さっさと帰れ』だよ。総司令部側が満足する憲法を早急に作っちまおうじゃないか。国の体制を整えるのは、独立を回復してからだ》、と。
「この言葉は、現代の日本が抱えているパラドックスを象徴していると思うんです。吉田はアメリカに対して、『Go home』、つまり早く占領をやめて帰ってもらいたいと考え、新憲法の制定を急いだ。ところが最終的には、ある種の占領状態が永続するような選択をせざるを得なかった。そして、いまだにアメリカ軍が日本国内に駐留するわけです」
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