書評

遊び心に充ちた、たわいのない「ウソ」。あなたもついたこと、ありませんか?

文: 東 直子 (歌人・作家)

『フランダースの帽子』(長野まゆみ 著)

『フランダースの帽子』(長野まゆみ 著)

 長野まゆみさんといえば、『少年アリス』で鮮烈なデビューを飾り、幻想的で耽美的な作品世界で、女性を中心とした多くの読者を牽引していたイメージがある。しかし近年は、戦争体験のある父をテーマにした『冥途あり』のような作品でも注目されている。

『フランダースの帽子』は、記憶やイメージの攪乱からくる違和感という点で幻想小説の味わいを残しつつ、現代の日本に生きる人々(主に女性たち)の生き方に、新しい角度からの豊かさを与えた小説でもあると思う。

 表題は、この本の中に収められている六つの短編のうちの一編から。改めて六つの短編のタイトルを並べてみる。

「ポンペイのとなり」「フランダースの帽子」「シャンゼリゼで」「カイロ待ち」「ノヴァスコシアの雲」「伊皿子の犬とパンと種」。

 これらのタイトルに共通しているのが、固有の地名を含んでいるということ。といっても、その土地でドラマが展開するわけではない。短編ごとに独立した物語として、地名は象徴的な関わり方をする。

フランダースの帽子長野まゆみ

定価:本体650円+税発売日:2019年02月08日