別人になるということと深く結びつく形で一貫して描かれるのが、きょうだいという関係である。同じ親から生まれ、同じ家の中で育つ。遺伝子的にも環境的にも同じような条件ながら、違う肉体と心を持ち、違う人生を送るということの不思議さに、長野さんならではの自在さで切り込んでいる。
「ポンペイのとなり」には、年子の姉と弟の姿が描かれている。家のスペースの関係でそれぞれの個室を確保することはできないため、同じ部屋で二段ベッドを使っている。姉が下で、弟が上。同じ場所の高さが違う空間が、唯一のプライベート空間となる構図が、読後にはとても意義深く感じられる。
あるとき姉が自分の空間に「グラフ誌から切りぬいたポンペイ遺跡の大判のグラビア」を貼ると、弟の方もいつのまにか「ポンペイの写真を貼っていた」。ただし姉はそれを「彼が興味を持っていたとは思えない。ほんとうに好きなものをわたしに悟らせないための偽装なのだ」と思う。「姉に宝ものを知られてはいけないと、いつしか学んだ」のだと推察して。
ポンペイは、火砕流によって一瞬にして街全体が火山灰の下に埋もれてしまったイタリアの古代都市である。その遺跡から発見される当時の人々の痕跡は、今も大きな話題となる。土の下から届けられる、古代からのメッセージのように。
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。