少し遠くからその地を思い、又、その場にはいない人物のことを考える、という構造が共通している。思い出さずにはいられないその「人物」は、物語が進めば進むほど、謎が深まっていく。
そして、短編の終わりに、あっ、と声を上げそうになるような形で鮮やかに、ひらりと、思ってもみなかった真実をちらりと見せる。驚いている間に、突然幕が閉じるのだ。
なぜ彼らはわざわざそんなことをするのだろう。
短編が終わり、現実に取り残された読者である私たちは、呆然と立ち尽くして、そんなことをずっと考えてしまうことになる。
私たちは毎日、いろいろな人と出会う。仕事を共にする人として。様々なサービスを受ける人として。家を一歩出れば、皆、なんらかの社会的な存在として関わることになる。名前、年齢、経歴、社会的立場、性別など、そのとき名乗った内容を、よほどのことがないかぎり疑うことはない。
逆に言えば、いくら事実とは違う名前、年齢、経歴、社会的立場、性別を騙っても疑われることは少ないのだ。隠すべき犯罪でもない限りそんなことはしない、と思っているが、洋服や髪形を変えてイメージチェンジをしたくなるように、別の人物になってみたいという他愛のない願望でそれをする人も、この広い世の中にいてもおかしくはない。
プレゼント
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。