弟は、ある日ふいにいなくなる。さらに、「湖」という詩的な名前を持つ、弟の友達(姉とも親しくしていた)も、あるとき忽然と姿を消す。それから長い時間が経ったあと、姉弟の実家に、湖の長女と名乗る人物から、弟宛の手紙が届く。そこから、ポンペイの遺跡が発掘されたときのように、遠い記憶が蘇るのである。
姉と弟は、洋服を共有していた。相手の服を着るとき、ひとときその相手の表層を纏うような気分になり、世界の一部を共有しているということが大きな意味を持つのだろう。
又、姉と湖の間でも、秘密を共有する場面がある。これが短編の謎の肝になっている。この小説にとって大事なのは、秘密の中身ではなく、共有することそのものにある。複数の人間となにかを分かちあうということ。それは物であったり、時間であったり。人であったり、ときには、肉体そのものであったり。そこに生まれる人間関係の綾が意表をつく。それは、甘美な体験でもある。
短編「フランダースの帽子」の冒頭は、次のように始まる。
プレゼント
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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