- 2019.03.29
- インタビュー・対談
<阿部智里インタビュー> 時空を越え、常識を凌駕する物語──『発現』(NHK出版)
「オール讀物」編集部
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「具体的にこの小説が動き出したのは三年前のことです。全く新しい作品を書くにあたり、担当編集から出された提案が〈ダークファンタジー〉と〈二つの時代をまたいだ構成〉でした。最終的にはファンタジーからは離れてしまいましたが、それはいちばんいいものを抽出しようとした結果だから仕方ないですね。執筆中は大学院の修士論文提出も大変でしたし、もう本当に苦しんで苦しんで書きました(笑)」
二〇一二年『烏に単は似合わない』で松本清張賞を受賞。以来、外伝も含めて七冊の「八咫烏(やたがらす)シリーズ」は、累計百万部を突破する大人気シリーズへと成長した。平成生まれの作家として、もっとも注目されている阿部智里さんが、初めて挑んだ他ジャンルの長編小説が本書『発現』だ。
舞台は平成と昭和、時空を越えて起こった不可解な事件を軸に物語は進んでいく。そのテーマのひとつに置かれているのが、「加害者の中の被害者意識」だという。
「以前、早稲田大学から学徒出陣した方の講演を聞く機会があり、参考にできるのではないかと考えたんですが、同じ人についてのお話でも、聞いていくうちにその印象がどんどん変わっていく。最初はひどい人だと思っていたのに、実はそうとも言い切れないのではないかと感じるようになったり――戦争体験をされた方の壮絶な話を、戦争を知らない世代がどのように受け止めるのか? 私なりの答えがこの作品のラストへとつながったように思います。一筋縄ではいかない多面性や、立体的なものを読者の方にも感じてほしいのですが、正直、どういう反応があるのか怖い気持ちもありますね」
実際の〈歴史〉と真摯(しんし)に向き合いつつ、さらにこれまで自身の武器としてきた〈ファンタジー〉〈キャラクター〉の要素は完全に封印した。
「作家として使える残りのカードは、視覚情報をどこまでリアルに描写できるかですから、とにかく読者の方がその場にいるようなカメラの廻し方を意識しました」
その効果は最大限に発揮され、特に平凡に暮らしていた現代の女子大生が、周囲には見えないものが見えるようになっていく様子は、読者を恐怖へと引きずりこんでいく。しかし決してホラーではない。徐々に明かされていく真相とその後の展開は、デビュー以来、何度も「予想を裏切る」と評判を呼んできた作者ならではだ。
「直球のファンタジーはもちろん、刑事もの、パニック小説など、ジャンルにこだわらず、自分にしか書けない小説をこれからも書き続けたいです」
あべちさと 一九九一年群馬県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。史上最年少の二十歳で松本清張賞受賞。「八咫烏シリーズ」は本年夏に第二部スタートが予定されている。
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