生贄(いけにえ)伝説のある沼と、神が棲(す)む奥深い山。中腹の赤い鳥居から先は、人間が立ち入ることを禁じられた場所――。
24歳の若き作家が放つ待望の新作の舞台は、懐かしさと、かすかな不安を掻き立てられるような日本の原風景だ。ヒロイン・志帆(しほ)とともに山奥に招き入れられた読者は、神と人間、記憶と謎をめぐる新鮮なファンタジー世界にたちまち魅了される。
「作家という職業の存在を知った小学2年生の時から、必ず作家になると決めていました。中学生の時に荻原規子さんの“勾玉(まがたま)三部作”や上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』を読んだ後は自分も日本のファンタジーを書こうと思い、最初は〈妖怪〉をモチーフにしようかとも思ったのですが……高校2年生の時、“生贄の儀式に捧げられた女性が、自分を殺すかもしれない幼い神様を育てる”という設定が浮かび、八百万(やおよろず)の神さまについての本で、玉依姫命を見つけました。でも当時は文章の表現力も知識も足りなくて、新人賞に応募しても全然駄目でしたね」
そこから阿部さんは大学で神話の成り立ちやアジアの歴史を学び、「玉依姫」から派生して生まれた物語『烏(からす)に単(ひとえ)は似合わない』で在学中に作家デビューを果たした。
伝説の三本足の鳥・八咫烏(やたがらす)一族を描いたシリーズは、8年の時を経て今年ついに完成した『玉依姫』を加え、累計60万部の大ヒットシリーズに成長。しかし、中世日本の雅な風俗を下敷きに創出された異世界ファンタジーに魅了されてきた熱心な読者ほど、5作目となる『玉依姫』には衝撃を受けるかもしれない。なぜなら、冒頭から「バスを乗り継いで祖母の故郷に辿り着いた女子高生の志帆」が登場するのだから。八咫烏たちはどうやら、現代日本と地続きの場所に存在しており、その世界の成り立ちには複雑な歴史と秘密があったことが明かされる。
「新刊を読む度にシリーズ既刊のイメージが変わり、何気ない一文に別の意味があることに気づくようにと仕込んできました。『もう一度全部読み返さなきゃ!』と、読者の方が本屋さんにダッシュしてくれるようなものを毎回目指しています」
自分に害をなす存在を愛することができるのか。信じ難い決断を迫られた志帆のとった道は? そして、すべての鍵を握る100年前の謎とは? 壮大なファンタジーを通して描かれる、世界と自分の関わり、深い人間観。ラストで去来するのは、痛みとも感動ともつかない大きな感慨だ。来年刊行の『第一部完結篇』は、どこまで読者を驚かせてくれるのか、予想もつかない。
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