小林カツ代さんは、稀代の講演の名手だった。講演だけではない、普段のおしゃべりからして名人で、人の気をそらせず、それでいて独りよがりにならず、座談に巧みに起承転結をつけてゆくのだった。
坊さんの説法の要諦に「はじめしんみり、なかおかしく、おわりとうとく」があって、日本の名講演はほとんどこれに当てはまり、余談だが、話上手な、かつてのラジオ「全国こども電話相談室」の無着成恭、「クレイジーキャッツ」の植木等、ラジオタレント永六輔、落語家五代目三遊亭圓楽、すべて実家がお寺さんである。
カツ代さんの話術の秘密は、落語にあったのではないかと私は思う。初めて、カツ代さんとあいさつを交わしたのが、文京区千石の「三百人劇場」で開かれていた「志ん朝の会」で、忙しい中でもこの独演会だけは欠かさず観に出かけてきているとのことだった。古今亭志ん朝のファンで、スピード感あふれる流麗な噺の運びがお気に入りだったようで、生粋の大阪人が典型的な東京っ子に惚れていたのだ。カツ代さんの気風の良さは、大阪育ちより江戸の匂いのする東京人に憧れていたところから生まれてきたのかもしれない。
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