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【試し読み】本屋大賞受賞! 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』第5回

文: 瀬尾 まいこ

『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ 著)

 私はどんぶりをのぞきこんで小さなため息をついた。やっぱりかつ丼だ。朝食をしっかりとる私でも、朝から揚げ物はきつい。

「今年は受験もあるし、高校最後の体育祭に文化祭に、勝負の機会も多いだろう」

「そう……かな」

 二年生が始まる日の朝も、森宮さんは「母親は子どものスタートにかつを揚げるって、よく聞くもんな」とはりきってかつ丼を用意してくれた。森宮さんの「親とはこういうものだ」という考えは時々ずれていて、私は戸惑ってしまう。

「さ、熱いうちに食べて。早起きして作ったんだから」

「うん。そうだね、ありがとう。いただきます」

 森宮さんが実の親だったら、「朝からかつ丼はきつい」とか、「始業式ぐらいでげんを担ぐなんておかしい」と主張できただろうか。森宮さんはあくびをしながら、自分にコーヒーを淹れている。早くから用意してくれたんだ。相手が誰であっても、わざわざ作ってくれたものを拒否するのは難しい。

「森宮さんは食べないの?」

 私は胃を驚かさないようにおそるおそるとんかつをかじりながら、前に座る森宮さんに聞いた。森宮さんの前にはどんぶりではなく、小さな紙袋が置かれている。

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そして、バトンは渡された瀬尾まいこ

定価:本体1,600円+税発売日:2018年02月22日


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