『奥様はクレイジーフルーツ』(柚木麻子 著)

 夫を愛し、愛されながらも、セックスレスが続いている初美、三十歳。同級生と浮気しそうになりながらも未遂で終わり、義弟によからぬ妄想を広げながらも勘違いで終わり、更には夫の同級生の女医に欲情しそうになりながらもブチ切れられて終わる、クレイジーな日々を送っている。

 読み始めたばかりの頃、「柚木麻子さんが官能小説をお書きになったのだろうか……?」と、ドキドキしながら頁をめくっていたが、めくってもめくっても、禁断の扉は開かれない。オトナの恋は始まらない。

 扉は開かれないものの、夫だけを愛し、セックスレスと向き合い続ける初美の心情が、次第に官能小説とも恋愛小説とも区切られない、なんともディープな世界に読者を誘う。読み終わってしばらく放心した。

 

 柚木さんは、あるインタビューで、この作品に対して、

「大学で専攻していたフランス文学をきっかけに不倫小説をいろいろ読んできたんですが、主人公の女性たちって皆、すごくレベルが高いんですよ。精神的に大人で、孤独に飛び込む勇気があり、道を外れる勇気もある。それを黙っている賢さもあり、夫とは会話がないのに、他の男性とは小粋な会話もできちゃうんです。つまり、不倫っていうのは“子供”には務まらないんだなって(笑い)。でも現実には、精神的に子供のまま結婚した女性もいるわけで、そういう人がどう性欲や夫婦に向き合っていくのか、というのを描いてみました」(日刊ゲンダイ)と、語っている。