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17歳のときにこの小説に出会っていたら……5人の少女たちへの願いとエール

17歳のときにこの小説に出会っていたら……5人の少女たちへの願いとエール

文:枝 優花 (映画監督)

『17歳のうた』(坂井希久子 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『17歳のうた』(坂井希久子 著)

 ニーチェによる「神は死んだ」とは「キリスト教の信仰は信じるに値しない」という意味であり、それと同時に「絶対的な視点は存在しない」というメッセージでもある。キリスト教信仰によって生き方や在り方に対して固定観念を持っていた人々の思想を打ち砕く言葉だったのだ。

 兄が失踪したことにより宮司の後継に穴があいてしまうわけだが、千夏は女であるが故に後を継がせてもらえずにいる。「女だから」というだけの理由で。

 さらに千夏と幼馴染のセイくんは、名前のない関係にある。付き合っているわけでもなく、ましてや好きですと愛を伝え合ったわけでもないのに、キスをする関係。唇同士が触れ合うその行為を「挨拶代わりです」と言えるようなお国柄ではないし、未だに「女は~、男は~、であるべき」という過去の名残が留まり続けている環境で生きているわけで……。この世は皆、関係性や役割にラベリングをしないと落ち着かなくなっている。なぜ全て言葉で区別し、掌握したくなってしまうのか。よく考えると男や女のあるべき姿なんてそもそも存在しないし、顔も名前も知らないいつかの誰かが作った決まりをいつまで守り続けているのだろうか。肝心の「今ここで生きている人間」の気持ちはいつもオザナリだ。体裁や決まりに翻弄される大人たちと、その対極にいるのが千夏の兄やセイくんで、その狭間で揺れているのが千夏。この話の大人は、まだ神が生きていると信じているのかもしれない。

 千夏は、セイくんや兄によって必然的にその境界線を飛び越える。私は私であり、自分自身が生きた上で感じたことが全てなのだと。神に仕える仕事に就こうとしている千夏が、まるで「神は死んだ」と言い切ったようで、笑ってしまった。そして、そろそろセイくんの曖昧さもchangeしてほしいなと思う。個に向き合えってデヴィッド・ボウイも歌ってることだし。

文春文庫
17歳のうた
坂井希久子

定価:825円(税込)発売日:2019年05月09日

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