- 2019.05.31
- 書評
17歳のときにこの小説に出会っていたら……5人の少女たちへの願いとエール
文:枝 優花 (映画監督)
『17歳のうた』(坂井希久子 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
I Want You Back
主人公のみゆきは、地元一の美人・美琴がキッカケで地元アイドルをやることになってしまう。乗り気ではないが参加したものの美琴は進学のためにアイドルを辞めてしまった。みゆきは、自分の将来のために他者に対して情のない美琴に苛立っている。
美琴の「私といたら、『自分じゃないなにか』になれるとでも思ったの?」という言葉がみゆきの中を木霊する。
人は誰しも幼い頃は「何者か」になれると信じている。花屋さん、パン屋さん、サッカー選手、芸能人。何か名前のつくもの。けれど蓋を開けてみると、ほとんどが名前のない「社会の一部」なのだ。歯車になって働く。そしてふとある時「あーあ。本当は〇〇になりたかったんだよな」と言ってみたりする。まるで、まだ自分は本気を出していないと言わんばかりに。なりたい何かになれなかったことが自分のせいではないかのように。その代表が、この物語の中のマチャ彦だ。きっと美琴は、マチャ彦のようになりたくなかったのだろう。明確な地図のない、他者依存の中で生き続ける時間は自分の人生にとって無駄と判断したのだろう。しかし美琴は人生の地図を手にして、その無駄な時間(暇つぶし)から脱出をしようとしたのだ。
一方のみゆきは、いつでも環境や状況を俯瞰し文句を言っている。同じメンバーのエリカのように目の前のアイドル仕事を一生懸命やるでも、美琴のようにバッサリとアイドルを辞めるでもなく、言い訳を並べては現実から動けないでいる。いや、動かないでいる。環境や他者は、本当の意味で人生を変えてはくれない。誰かの声援でみゆきの人生は輝かない。自分が自分の一番のファンでいることが何より大切なのだ。戻ってこない過去や人に対して期待を寄せて「本当はこんな大人になりたかったんだ」と言い訳並べるような大人になるなよ、とみゆきにそっと声をかけたくなったけど、きっと大丈夫な気がする。
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