書評

そびえ立つ世界最大の「壁」……「魔の山」に挑むクライマーの人間ドラマ

文: 市毛良枝 (俳優)

『大岩壁』(笹本稜平 著)

『大岩壁』(笹本稜平 著)

 山の印象として、高ければ難しく、危険でもあり、低ければたやすく登れ、危険ではない、と思われているようだが、それも正確ではない。高くても登りやすい山もあれば、低くても素人を遠ざける山もある。まして、ルートや登り方によっても難易度は変わるので一概には言えない。富士山は日本一高いが、極端に言えば、登ろうと思ってきちんと準備をすれば、たいていの人が登れる山だ。だから夏のシーズンには大渋滞となる。低いからといって、安全とは言い切れない。ミシュランガイドにも記され有名な高尾山は六百メートルに満たない。でも、険しくないからこそ道迷いして行方不明となることもあり、低山でも時に遭難のニュースを耳にする。ロッククライミングの聖地谷川岳は、標高千九百七十七メートルだがひとつの山での遭難者が八百名を超え、その数の多さで世界にも知られる。

 ナンガ・パルバットは、世界最高峰のエベレストより七百メートルほど低いが、難易度では八千メートル峰の中でもアンナプルナ、K2などと二番、三番を争う。登頂待ちが続くといわれるオンシーズンのエベレストとは比べられないほどに、選ばれた登山家、クライマーの舞台となる。

「登山家」と呼ばれる人にも様々なスタイルがあり、登山家、アルピニスト、クライマーなど、好むスタイルが違う位で、明確な差はなく、どちらが上とか下というものでもない。山への向き合い方の違いとでも言おうか、いずれにしても一言ではくくれない。技術や能力や方法論の違いはあっても、山への熱い思いは、それぞれの登山家も、一般登山者もさして違いはないはずだ。

大岩壁笹本稜平

定価:本体740円+税発売日:2019年05月09日


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