連載が終了して、かなり大幅な加筆・推敲を経て四六判単行本として上梓した時、本の帯に次のようなメッセージを掲げた。
〔この作品は書いているうちに思い入れがどんどん強くなっていった。浅見光彦と陽一郎、警察と自衛隊――という「兄弟」の物語として昇華したのは、僕の予想を超えている。戦後、日本人が喪った最大のものは「覚悟」ではなかっただろうか。この作品ではそのテーマを、大上段からではなく、あくまでもエンターテインメントとして書いた。『氷雪の殺人』はタブーに対する僕流の「挑戦」といっていいかもしれない。〕
こう書いたのはあくまでも結果であって、すでに自白しているように、当初はいわゆる旅情ミステリーの「利尻版」のようなものを想定していた。ところが、現実の世界では執筆中に思いがけない「事件」が次々に起こった。その象徴的なものが「テポドン」である。北朝鮮から発射された長距離弾道ミサイルが日本列島上空を越えて、三陸沖の太平洋に落下したこの事件は、わが日本国の危機管理体制の不備や、事後処理の拙劣さを浮き彫りにした。国民の多くがすでに忘れてしまっていると思うが、「テポドン」が落ちた事実を国民が知ったのは、日本政府の発表によるものではなく、韓国のテレビ局が放送したことによっている。しかも落下地点を正確に「北緯40度11分、東経147度50分」と発表したのは韓国政府だった。日本政府、とくに防衛庁の無能ぶりは国民にはもちろん、海外でも失笑を浴びた。
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