『氷雪の殺人』のテーマはやはり「覚悟」だったと思う。「覚悟」については『遺骨』などでも書いている。脳死による臓器移植が日常化すれば、そう遠くない将来、利益を優先した臓器の売買や、極端な場合、臓器の摘出を目的とした殺人事件も起こりうる。そのことも覚悟してかかるべきだ。
コメ問題にしても同じである。極端な減反は食物に関する国の安全保障の面で、将来に禍根を残す可能性のあることも覚悟しなければならない。逆に、外国産米を関税によって締め出すのは、自動車やハイテク製品に対する報復的な関税を発生させる危険性を、つねに内包していると覚悟すべきだ。
安い労働力に依存して工場を海外に進出させ、企業の業績を上げるのはいいが、それは国内の失業率を上昇させ、購買力を失わせる結果に繋がることを覚悟してやっているのかどうかが問われる。
この作品のラスト、宇都野海将補が太平洋上で「遭難死」するのは、必ずしも褒められた話ではないが、軍人らしい覚悟のほどを示したという点で、『氷雪の殺人』のテーマをそれなりに完結させた。
二〇〇三年秋 内田康夫
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