『西洋菓子店プティ・フール』の魅力
新井 わたしたちは甘い物好きっていう共通点もあるんですよ。
千早 食いしん坊仲間なんで。
新井 こんなに付き合ってくれるひとはいないですよ。
千早 ほんと、いないね。『わるい食べもの』というエッセイにも書いているんですけど、だいたいわたしとご飯食べにいくと皆体調崩すんですよ。一日中食べているから。でも、わたしを上回るくらい新井さんは食べるから、楽。
新井 でも、どうしようね。こんなに食べて。
千早 新井さんはすごい痩せてるじゃない。
新井 そう言われるんですけど、太ったんですよ。出版業界入ったときは細すぎて、本を持てるのか心配されていましたけど。
昨日千早さんの『西洋菓子店プティ・フール』を読み返して、シュークリームを食べました。本って、何年後かに再読すると、最初のときとは全然違って読めますね。
千早 そうですね。この本は下町の洋菓子店を舞台にした連作なんですけど、単行本の時は主人公のパティシエールの亜樹ちゃんの人気がなかったんですよ。文庫になったら、そういう感想を前ほどは見かけなくなって。受け取り方が変わったのかな。わたしの気持ちも変わったから、ゲラを直すときはけっこう大変でしたね。三年の間に、価値観ってけっこう変わっていくんだなと思いました。
新井 特に今はね。わたしは甘いものは好きでも、そこまで、お菓子の名前とか、作ってる人のこととか意識してなかったけど、これを読んで、すこし詳しくなった。
千早 それはよかった。すごい取材して書いているので。
新井 そういえば、エッセイを翻訳版で出すのはどうですかという話があったんですよ。
千早 へえ! エッセイって翻訳されるんだ?
新井 わたしもそう思って。どこまで話が通じるのか。
千早 翻訳されるのは面白いよ。私の小説も、何作か翻訳されてるけど、まず表紙が全然違う。『男ともだち』の翻訳版の時は、担当の人が「これはやばい」と思ったのか、こういうのできてますけど……と見せてくれて。金髪の美女がてのひらに小さな男の人をのせて足を組んでいる写真だった(笑)。
新井 どういうイメージ? 悪い女よ、みたいな(笑)。
千早 原本の表紙は文庫本も単行本も同じ写真家さんなんだけど、単行本はモノクロのかっこいい感じだったので、結局そちらにしてもらいましたね。
新井 千早さんの本はいつも表紙がいいからね。『西洋菓子店プティ・フール』も文庫本じゃないみたい。かわいい。字まで絵なんですよね。
千早 題字も西淑さんというイラストレーターの方に描いてもらったんです。単行本のときも同じ方なんですけど、お菓子に使うハーブを描いてもらいました。単行本はお菓子の箱を、文庫の背景のつるっとした白は生クリームをイメージしています。
新井 既存のフォントだと浮いちゃうんですよね。
千早 最初のデザインがなかなかイメージと合わなくて、何度かやり直しもしてもらったんですけどどうも気に入らず。西淑さんに相談したら「わかった、わたしが(タイトルも)描くけん」と。すぐさま一晩で5パータンくらい描いてくださったんですよ。かっこいい。
新井 それを聞いたときに妥協はよくないなと思いました。
千早 だって、イメージと合わないものを出してしまったら、本屋で自分の本を見た瞬間に地獄にいるみたいな気分になるんですよ。自分の本を愛せないって悲しい。それに、編集さんたちとみんなで作っても、表紙には自分の名前しか載らないので、わたしが妥協するわけにはいかない。
新井 そうだね。すべては千早さんにかかってくるから。千早さんってこういうフォントのセンスなんだって、ずっと思われるってことだもんね。
千早 耐えられないですね。
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