- 2016.02.27
- 特集
ショートケーキ、シュークリーム…『西洋菓子店プティ・フール』に登場するお菓子を探して
文:瀬戸 理恵子 (フードエディター・ライター)
『西洋菓子店プティ・フール』 (千早茜 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
人々においしい笑顔と幸せを届けてくれる、スイートなお菓子の世界。でも、いざ向き合ってみると、そこにあるのは決して甘さばかりではないことに気付くはず。きゅんと切ない甘酸っぱさや、心をチクリと刺すようなほろ苦さもあれば、ときには涙のようなしょっぱさも。さらに深いところを探れば、パティシエの真っ直ぐでひたむきな信念や、職人の厳しい世界を思わせるぴりっとした緊張感も押し寄せ、心を大きく揺さぶるのです。
この物語に登場するのは、そんなさまざまな味や色、香り、食感、思いが入り混じった、魅力あふれるお菓子の数々。千早さんの細やかな描写を読むだけで、鮮やかなお菓子が目の前に現れて香り立ち、口いっぱいに味が広がっていくよう! 五感を大いに刺激されて、物語にグググッと引き込まれてしまいます。
舞台は、下町にある洋菓子屋「プティ・フール」です。店主のじいちゃんがつくるのは、ショートケーキやシュークリームといった昔ながらの洋菓子。一方、ともに厨房に立つ不器用で真っ直ぐな孫娘・亜樹がつくるのは、フランスや一流店で身に付けた、キレのあるフランス菓子。一見、じいちゃんの菓子は野暮ったく、亜樹の菓子はハイレベルに見えるけれど、次第に亜樹はじいちゃんの菓子のすごさに気づいてしまうのです。それは、理論やレシピを超えた、長年の経験から繰り出される味の深さと、どんな人をも無条件に包み込んでくれるような温かさ。2人の人生や人柄が映し出された対比のあるお菓子に、それを食べる登場人物たちの人生や心情もさらに重なって、その味は“おいしさ”を超えたより深いものに。読み進めるにつれて、心の奥底で息を殺していた何かがうずき出すのを感じ、すぐにでも物語に登場するお菓子を食べて、癒されたい気持ちになってしまいました。
フードライターという職業柄、私は取材を通じてさまざまなパティシエやお菓子に出会います。そのたびに、お菓子にこめられた思いや人生、ストーリーを知り、胸が熱くなるのです。この物語を読んで味わったのも、同じような思い。登場するお菓子を実際に味わいながら、みなさんもぜひ、“おいしさ”の先にあるお菓子の魅力を体感してください。
※2016年取材時の情報です。
「トリアノン」生シュークリーム
地元・高円寺の人たちに愛され続ける、1960年創業の洋菓子店。昔ながらのシュー皮に、軽やかな生クリームのみがたっぷり絞り込まれ、かぶりつきたくなる懐かしい味わいです。
東京都杉並区高円寺南4-26-12
03-3315-1451
http://trianon.co.jp/
「マッターホーン」ショートケーキ
レトロで洗練された1952年創業の洋菓子店。きりりとした鋭角三角形のショートケーキは、ふわふわスポンジと国産イチゴ、生クリームがマッチ。王道のおいしさに、伝統と職人の誇りが感じられます。
東京都目黒区鷹番3-5-1
03-3716-3311
http://matterhorn-tokyo.com/
「オーボンヴュータン」プティフール フリアンディーズ
フランス菓子の真髄を追い求め、伝統の味を作り続けるパティシエ、河田勝彦氏。宝石のように並ぶプティフールは、力強く凝縮された味わいで、香り華やか。熟練の技と感性に圧倒されます。
東京都世田谷区等々力2-1-3
03-3703-8428
http://aubonvieuxtemps.jp/
「アンプリル」ピュイ・ダムール
「ピエトロ・ロマネンゴ」ローズジャム
岡田峰幸氏がつくるピュイ・ダムールは、香ばしいアメ、コクのあるカスタードクリーム、ほろほろのパイが絶妙のバランス。シンプルで見た目も地味ながらはっとさせられるおいしさです。
物語のように一緒にバラのジャムを味わいたいならば、「ピエトロ・ロマネンゴ」のローズジャムを。上品なバラの香りが豊かに花開きます。
「アンプリル」
東京都足立区谷中1-5-3 パークサイド新家 1F
03-5849-3372
「ピエトロ・ロマネンゴ」取扱い⇒
「ノンナアンドシディ ショップ」
渋谷区恵比寿西2-10-6大槻ビル102
03-5458-0507
http://www.nonnaandsidhishop.com/
「パリセヴェイユ」フォンダン ショコラ オ グリオット
フランスさながらの趣漂う、金子美明氏のパティスリー。温めたフォンダン ショコラにフォークを入れると、甘酸っぱいグリオットチェリーと入り混じってチョコレートが流れ出し、キルシュがふわりと香ります。
東京都目黒区自由が丘2-14-5 館山ビル 1F
03-5731-3230
*イートインのみ。バレンタインや桜の季節など不定期で登場。グリオットなしの「フォンダン ショコラ」(\450税込)は通年販売。
「ル サロン ジャック・ボリー」パティスリーコンチェルト
物語にも登場するワゴンデザートの醍醐味を楽しめる、エレガントなカフェ キュイジーヌ。ヴァシュラン、イル フロッタント、ラム酒のサヴァラン、パリブレストなどが味わえます。
東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店本館4F
03-5363-5688
http://parlour.shiseido.co.jp/lesalon/
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