インタビューほか

女ともだちと語らう最高の時間 千早茜×新井見枝香 対談

公開トークショー

「いいエッセイ」の条件

千早 前に新井さんとイベントしたときに、友達のエッセイを読むのってずるい気がするっていう話をしたことがあるんです。

新井 それ、面白いよね。

千早 新井さんとは仲良くなるのに時間がかかったので、本来は親しくなっていくうちに知っていく情報が、エッセイ一冊読んだら知れるのがずるい感じがして、申し訳ないなと思ったんです。次に会うとき、本から得た情報を知らないふりをしたほうがいいのか、知っている前提でしゃべっていいのか、迷ったんですよ。実際に知っている新井さんの顔がちらついていたんですよね。でも、この三冊目のエッセイ『この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ』では新井さんが消えていて、ふつうに読み物として声をだして笑って読みました。文章って、作者の顔が見えなくなったほうがいいと思うんですよね。作者がちらつくっていうのは、吹っ切れてない感じがあるので。

新井 それはほんとうにそうですね。わたしもそういうタイプです。仕事柄、作家に会うことは多いですが、一回会って話しちゃうと、どうしてもその人の顔がチラついて、物語に集中できないときがある。でも、それを忘れるくらいの小説ってあるんですよね。書いている人が全然見えない。それはすごいと思っているので、エッセイでそう言ってもらえるのは嬉しいです。

千早 キャラが確立されてきているのかも。ふだん会っている時の雰囲気と、エッセイで書かれていることは乖離しているので。

新井 違いますよね。

千早 人間は誰しもそうだと思います。みんなに同じ顔を見せている人ってそうそういないと思うんですよ。職場とか家族とか友人とか、全員に対して違っている。だから、この三冊で、本屋用の新井が確立されたんだと思う。

新井 それはあります。

千早 生活は変わりましたか。

新井 スーパーで見切り品は買えなくなりました。

千早 嘘!?

新井 この前も、カフェのモーニングでパンをモリモリおかわりしていたら、隣の人に「新井さんですよね」って声を掛けられたんですよ。知らない人が自分のことを知っているのは、わりと平気なんですけど、恥ずかしいことはしにくくなった。いいことですよね、社会的には(笑)。

千早 でも、前からそうだったよね。仲良くなりはじめの頃に、近くの居酒屋で他の作家さんと飲んでて新井さんに「来る?」とメールしたら、制服できちゃって他のお客さんに「三省堂の新井さんですよね」とか言われてた。

新井 あまり変わってないか(笑)。ただ、書店員が本を出したり、テレビに出たりすることはいかがなものかということで、最初は風当たりが強かったんですよね。でも、正直いうと、自分もそんなに深く考えてなかったんです。いま、目指すところとしては、本を薦めたときに信頼してもらえる存在になりたいなと思っています。「新井賞」を始めて、わたしを信じて買ってくれる人は増えたと思うから、意味はある。けど、そんなに気負ってもいなくて。好きな本がなければやらんでもいいし、突然、賞自体がなくなるかもしれない。

千早 気まぐれだよね。新井さんは、だいたい気分なんですよね。実は、『男ともだち』でもそういうようなことを書いているんです。勘や気分で動ける人はその場その場で正解をだせると思うんです。ハセオとか。

新井 そうだと思います。

千早 わたしは作家なので、まわりも文系の人間が多くて、書店員さんも文系が多いんですけど、なにかする時にどうしても言葉が先にでる。みんな想像力が豊かなので、これをしたらこういう反応がくる、こういう効果があって、でもこういうデメリットがあるんじゃないかっていう頭が働いてしまいがちな気がします。言葉の人間は自分の行動を正当化する言葉をいっぱい用意することもできる。でも、新井さんは、すごくたくさん本を読んでてもそうはならなくて、気分といいながらも結局、恐れずに行動できる人なんです。とりあえずやっちゃった、やったらこうなった、なら今度はこれやってみよう、という風に動ける人で、めずらしいタイプだと思いますね。

新井 あまり考えないんですよ。

千早 でも楽しいよね。いつも楽しそうに仕事をしていると思います。

新井 そうですね。本を書くことも、自分が楽しいからやったのであって、これで、いま苦しい出版業界を救いたい、とかそういうつもりは全く無いですね(笑)。

【次ページ 『西洋菓子店プティ・フール』の魅力】

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