書評

境界にいる人間が見せてくれた、真っ当過ぎるまでの正義感

文: 誉田龍一 (作家)

『横浜1963』(伊東 潤 著)

『横浜1963』(伊東 潤 著)

 いきなりだが、著者の伊東潤氏は無類のロックミュージックファンである。そこに敬意を表して言えば、名曲と言われるものはイントロ、それも出だしのフレーズを聴いた瞬間、「ああ、凄い」と胸や頭に衝撃を受けるのが常だ。そしてまさに本書『横浜1963』の冒頭がそうである。

 夕闇迫る横浜新港埠頭の殺風景な景色の中、片手で風よけを作って火をつけた両切りピースを吸いながら、ひとり人待ちする主人公、そして現れる一台の通称チャイニーズ・アイと呼ばれる車……もう、このわずかな冒頭でこの先への確信、すなわち極上のミステリーの始まりだという確信が膨らんでいった。

 伊東氏のこれまでの活躍ぶりは衆人の知るところであるが、あらためて記すと、公式サイトによれば、一九六〇年生まれの氏は外資系企業からコンサルタントを経て、二〇〇七年に『武田家滅亡』でメジャーデビュー、二〇一一年『黒南風の海──加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』で本屋が選ぶ時代小説大賞、二〇一三年『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞、『義烈千秋 天狗党西へ』で歴史時代作家クラブ賞(作品賞)、『巨鯨の海』で山田風太郎賞、二〇一四年同作で高校生直木賞、『峠越え』で中山義秀文学賞を受賞、更に直木賞ノミネートは五回に及び、歴史小説における伊東氏の実績とその存在感は圧倒的であり、現在もトップランナーとして次々に作品を書き続けている。

横浜1963伊東 潤

定価:本体730円+税発売日:2019年07月10日


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