書評

利休と秀吉と二代にわたる天下人に仕えた茶人の白熱した生の軌跡

文: 橋本麻里 (ライター・エディター、永青文庫副館長)

『天下人の茶』(伊東 潤 著)

『天下人の茶』(伊東 潤 著)

 桃山時代、二代にわたる天下人の間近に仕え、名だたる武将たちと交流し、今日まで伝わるわび茶という総合芸術を確立した千利休。政治が芸術へ、芸術が政治へと深く浸食しあった後、大量の血を流して再び分離していくさまは、戦国時代を舞台とするフィクションのつくり手で、一度はテーマにと考えたことのない者はいないだろう。だが実際のところ、千利休とその茶の実像を描こうと試みた小説やコミック、映画は、思いのほか少ない。利休の茶の本質をいかに描くべきか、何よりそこが難物であるからだ。

 本作では利休自身がその考えを明らかにすることはついになく、牧村兵部(利貞)、瀬田掃部(正忠)、古田織部(重然)、細川三斎(忠興)ら利休七哲に数えられる高弟たちが順に語り手となり、それぞれの立場から目撃した利休、そして豊臣秀吉の、政治と芸術における相剋が、連作形式で語られる。たとえるなら、ひとつの主題に基づいて変奏が繰り返されていく、長大な変奏曲のような物語だ。


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天下人の茶伊東 潤

定価:本体670円+税発売日:2018年12月04日