- 2016.11.07
- インタビュー・対談
現実の手触りと小説の嘘――横浜をめぐって 堂場瞬一×伊東潤【前編】
「別冊文藝春秋」編集部
『横浜1963』 (伊東潤 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
小説にとって、リアリティとは何か――初の現代小説『横浜1963』を上梓した歴史作家と警察小説の第一人者が創作の原点を明かす
歴史作家が初めて警察小説を書いた理由とは?
伊東 お目にかかるのは初めてですが、堂場さんの作品は以前から拝読していました。ただ面白いだけでなく心理描写が巧みで、胸底にずしんとくる。しかも、どの作品も類似したものがない。また警察小説だけでなくスポーツ小説という分野のパイオニアでもあり、それぞれの分野で多くの読者を獲得しておられる。今日は、創作の秘密をぜひ伺えればと思っています。
堂場 こちらこそよろしくお願いします。これまで伊東さんが歴史小説で活躍されているのは知っていましたが、まさか警察小説をお書きになるとは思いもしませんでした。
伊東 今年、デビュー十年目を迎えまして、読者の裾野を広げるために新しい分野に進出しなければならないと思ったんです。
子どもの頃から『刑事コロンボ』のノベライズ版をはじめ、ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラー、松本清張など、国内外のミステリーにも親しんできましたので、ミステリーを書くことに抵抗感はありませんでした。
堂場 自分のベースとなるジャンルで勝負しようと考えたわけですね。こちらとしては、「歴史作家が我々のテリトリーに切りこんできたな」とつい警戒してしまう(笑)。
伊東 いや、それが実は逆なんです。最近は馳星周さん、垣根涼介さん、門井慶喜さんなど、現代小説の書き手が次々と歴史小説に進出してきています。つまり、これまでは籠城戦でこらえてきましたが、そろそろ反転攻勢に出なければならないなと(笑)。
堂場 『横浜1963』は、反撃の狼煙(のろし)なんですね。この作品を手に取ったとき、まずタイトルに親近感を覚えました。私は一九六三年生まれなんですよ。
伊東 僕が六〇年生まれですから、我々はほぼ同年代ということになりますね。
堂場 当時の記憶はもちろんありませんが、この小説を読んである種の懐かしさを感じました。六三年は日本にとっての転機の年になりましたよね。翌年に東京オリンピックを控えて、日本中がいまにも爆発しそうなエネルギーを蓄えていた。高度経済成長もいよいよ本格的に始まって、お金があらゆるものの評価軸になっていく。現代の基礎が形作られた時代ですよね。伊東さんは、あえてその時代を選ばれた。
伊東 私の場合、これまで歴史小説を書いてきたこともあってか、小説の背景となる時代の空気を重視します。六〇年代は誰もが何かに期待をしていて、未来に対する希望に満ちていた時代でした。その熱気に強くひかれたんです。日本は民主主義国家として再生したばかりで、「みんなで豊かになろう」という勢いがありました。
-
『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/12/17~2024/12/24 賞品 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。