
10年ほど前のことです。絵本専門誌の「MOE」に、自分の持っている『ちいさなうさこちゃん』を撮影のため、お貸ししたことがありました。その本は、小さい頃に買ってもらった、あの本そのものではなく、大人になってから古本屋で求めたものでした。子どもの頃持っていたものよりは、少し新しい本でしたが、懐かしい書体や装丁は、あの頃と同じものです。自分の本当の『ちいさなうさこちゃん』は、実家に置いてきたままなので、かわりにその本を手元に置いていました。見返しのページには、赤鉛筆で落書きがしてあって、その覚束(おぼつか)ない線は、この本の最初の持ち主を想像させて、見るたびに微笑んでしまう佇まいでした。
本の返却のやり取りの電話で、MOEの編集者の方が「今度ブルーナさんのところへインタビューをしに行くので、よかったらこの本にサインをもらってきてあげましょうか?」と、思いがけないお話をされました。
えっ、そんなこといいのかな、嬉しいけど、 ほんとかな……と、なんだかフワフワしながら、「良いのでしょうか、お願いしても」と返事をすると、落書きつきの『ちいさなうさこちゃん』は、そのままオランダに旅立っていきました。
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