これはむろん一種のジョークとしてなされたものだから、特に真剣になる必要はないのだが、十九世紀発生のこの文芸は、科学信奉意識を通過したアングロサクソン民族の身内趣味であり、他人種の才は当時基本的に必要としてはいなかった。中国人種に限らず、他民族はこの新文芸の意図を理解はしないであろうと考えていた。
近現代史各方面に遺されたこの民族の進歩への貢献度を考えれば、この程度の軽口は許されてよいが、アジア人のIQの高さや、その能力の将来の伸張率を、この英国人は優越感ゆえに読み切れなかった。そして創始者アングロサクソンによる探偵小説創作が失速した今、他の誰でもなく、中国人こそが魔術を脇に置いてジャンルに傑作を送り込み、フィールドを支え、復興を為さしめるべきである。
果たして新世紀が開けた今回の当賞において、中国人のミステリー作家が、あえて人種的な特徴である「黄」という色彩をタイトルに押し立てて秀作を書いてきた事実に、時代の意志を感じずにはすまず、思わず拍手を贈りたい衝動にかられた。
しかもこの「黄色」が、驚きを誘導する装置であるべきこの小説において、結部の最大の驚きと巧みに重なる位置に計算されており、一個人の才覚を超えて現れたふうのその巧妙な企みにも、心を動かされた。
遥か東方に一條の河あり、その名を長江という
遥か東方に一條の河あり、その名は黄河という
いにしえの東方に一條の龍あり、その名を中国という
いにしえの東方に人々あり、彼らは龍の末裔なり
巨大な龍に守られて我らは成長し、やがて龍の末裔となりし
その黒い瞳、黒い髪、そして黄色い肌、永遠、それは龍なり
華文の作家志望者に向かい、幾度か訴えたこちらの意図が、この美しく誇り高い詩とともに、これ以上望めない完成形で戻ってきた今回、大いに満足したことをも告白しておかなくてはならない。
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