「暗黒時代」の自分が読みたかったもの
Fさん 首都高を裸足でドライブするというのが、凡人の私には絶対に発想できないなと思ったんですが、これはどこから思いついたんでしょうか。
佐々木 私も凡人ですが、俳句に参加していた時期があって、あるときのお題が確か「東京」だったんです。その時に、首都高を裸足でドライブしてという句を作ったことがあり、そこから発想しました。あと、この作品は、ゲスの極み乙女。の「ロマンスがありあまる」を聴きながら書いたんです。まったく凡人ではない川谷絵音さん作詞のその歌詞に、「嘘」について書かれた、とても好きな部分があって。ちょうど不倫騒動の時期だったので、不倫をする人たちの心理にも興味があって、テーマソングとして聴いていました。
Bくん これは四作全てについてですが、リアリティのある描写と、詩的な表現の両方が調和していて、その細部にも感情を揺さぶられました。こういったバランスは、意識してとっているのでしょうか?
佐々木 すごく自意識過剰なので、書いていて突然恥ずかしくなることがあって、いったん書いて消したり、また足したりを繰り返して、なるべく恥ずかしくならないバランスを探しながら書こうとはしています。
Bくん あと、どの作品にも、自分が閉じこもった認識の中にいたということを発見する場面が描かれます。そう気づいたときに、それに決別するのではなく、受け入れて、でもひたむきに生きていこうとするところが、すごく切実で、好きでした。
佐々木 私は大学生の時に、一人もといっていいくらい友だちができず、卒業式も一人で出たんです。いまだにあの暗黒時代を引きずっていて、だから無意識に、その時の自分に対して書きたいというか、あの頃の自分が読みたかったものを書いたのかもしれません。書き手としては、もっと広いところを見て書かなくてはと思っているので、これから進化します。
Eさん 読んでいて少し窮屈に感じる部分があったんですけど、それはまだ自分がこの時期からちゃんと抜け出せてないせいかもしれないと思いました。一方で、他の人もこうだったんだな、皆それぞれ恥ずかしいことあったんだな、と感じて、慰めにもなりました。
Fさん 私も、全く同じ経験はしていなくても、自分もこうだったな、と、忘れていた記憶が脳裏に過ぎるような、忘れていた感情がぶわっと湧いてくるような、そんな気持ちになりながら読みました。
ささきあい 1986年秋田県生まれ。青山学院大学文学部卒。2016年「ひどい句点」で第96回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。
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