長いカウンターテーブルに向かって私は座っていました。カウンターの先は遠くて見えていません。カウンターはそれほど混んでいるわけでもないのですが、私のすぐ右隣にはお客さんがいました。カウンターの中には和食の料理人風の格好をした店員が立っていました。どこからともなく声が聞こえてきました。「魚行くよー!」突然の大声に、店員は大慌ての様子で、ドタバタしています。彼は急いでキャッチャーミットのようなものを手にはめました。すると、遠くはるか彼方のカウンターの先の方から魚が豪速球で飛んできました。店員は少し悲鳴をあげ、ちょっと及び腰になりながらも、かろうじて飛んできた魚をミットに収めました。かと思ったら魚は私の右隣の客の前のカウンターに飛び跳ねてきていました。3匹いました。形はエンゼルフィッシュのようですけれど、色は黒っぽいグレー。「黒珍味ですね」いつの間にか私の左隣にいた人がポツリと呟きました。店員は私の右隣の人に、その魚をさばくようにと言いました。右の人は店員の仲間だったようです。しかし珍しい魚だったようで、どうさばいていいかがわからないみたいで戸惑っていました。すると左の人が「では私が……」とその魚を引き受けてくれました。魚は生きがよく跳ねていますが、左の人は手捌き良く仕事を進めました。しばらくすると左の人が「盛り付けの器を用意してくれるかな」と言いました。カウンターの中の店員はその声が聞こえていないらしく反応がありません。右の人はスタッフでもないので、その指示に応じる関係ではないようです。しかたがなく一番近くにいて、その声が聞こえた私が器を探すことにしました。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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