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読んだあと見た夢の話

読んだあと見た夢の話

文:日比野克彦 (東京藝術大学教授)

『バブル・バブル・バブル』(ヒキタクニオ 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #小説

『バブル・バブル・バブル』(ヒキタクニオ 著)

 いつの間にかカウンターの中は水中になっていて、私も水の中にいる状態になっていた。視界の良い海中のようだ。岩場には海藻、水草、イソギンチャク、などが太陽の光を浴びながらゆらゆら気持ちよさそうに揺れている。その中に白い陶磁器の魚を盛るにはちょうど良い高台のついた器が岩の上に鎮座していた。私はヘラのような道具を取り出して、岩と皿の底の間に差し込んで、岩にしっかりとくっついている器を割らないように取り外す。牡蠣の殻を開ける時にコツがあるように、ポイントにヘラがうまく入り、テコの原理でヘラをチョイと捻ると、皿が岩から離れてフワリと浮いた。皿の周りには海藻が生い茂っていてよく全体像は見えなかったが、その茂みから現れた皿の上にはなんとカニがいた。もちろん生きているカニ。自分の住処が脅かされているせいなのだろう、大きなハサミで威嚇している。私はカニごと皿を海面からあげようとすると、なにやら陸上ではそのカニを狙っているやつがいるようである。その顔が水面がゆらゆら揺れながらも水中からよく見える。それは犬でした。皿に乗ったカニが水からあがると、待ち構えていた犬は大きく口を開けた。するとカニも負けまいとハサミで対抗する。ハブ対マングース、もしくはコブダイのオス同士がナワバリ争いの際にどちらの口が大きいかを競っているように、犬の口とカニのハサミの鍔迫り合いが始まった。犬が先にカニに手(口)を出した。嚙みつかれたカニもハサミで犬の顔をやり返す。両者がっぷり四つになる。するとそこに海中でも陸上でも生きていけるウミイグアナのような得体の知れない動物があらわれてその争いに参加。ウミイグアナはカニに嚙みついている犬に嚙みついてきた。光り輝く太陽の下で水しぶきを上げながらみんな力強く生きている。というところで目が覚めた。その間僅か数分のこと。

文春文庫
バブル・バブル・バブル
ヒキタクニオ

定価:825円(税込)発売日:2019年09月03日

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