インタビューほか

結婚式、直木賞受賞、そして『東京會舘とわたし』。ミステリーのように不思議なご縁で導かれた大好きな場所

辻村 深月

『東京會舘とわたし』文庫化記念トークイベント

新しくなった東京會舘にいらしていただき、ありがとうございます。本の中にも美味しいお菓子がたくさん登場しますが、その中でも今日は私の大好きなマロンシャンテリーを召し上がりながらの会です。最後まで楽しんでいかれてくださいね。 

この本を書くことになったきっかけですが、まずは私が結婚式を東京會舘であげたことがはじまりです。東京會舘は文学賞の会場になることが多いと聞いて、作家としては「縁起がいいかも」と思ったのも会場を決めた理由の一つでした。実際に案内してもらったら、シルバールームというお部屋の壁が煉瓦のタイルで、確かに見覚えがあったんです。自分がずっと読んできた作家さんたちが受賞した際、会見で座られた背後にあった壁だとすぐにわかり、これまで意識したことがなかったけれど、自分の中にも確かに文学賞への憧れめいたものがあったんだと気づかされたんです。結婚式の引き出物は、私の当時の最新刊『ロードムービー』でした。まだ著作も少なく、一度も直木賞の候補になったこともなかったのですが、冗談めかして「次は直木賞の受賞会見で帰ってきます」と言ったところ、スタッフの方が皆さん微笑んで「お帰りをお待ちしてます」と言ってくださいました。

そして四年後、直木賞を受賞することになり、記者会見のために再び東京會舘を訪れました。私のことなどもう覚えていらっしゃらないだろうな、と思いながら、「私、結婚式もここだったんです」と伝えたところ、スタッフの方たちに「はい。お帰りをお待ちしておりました。お帰りなさいませ」と言われて、すごくあたたかい気持ちになりました。

実は、私が受賞した翌年から、改装のため、直木賞の記者会見会場は帝国ホテルに移りました。それを聞いて、私があの煉瓦の壁の前に立つことができたのは、東京會舘という場所の力が手伝って間に合わせてくれたような気がしたんです。

東京會舘とわたし 上 旧館辻村深月

定価:本体730円+税発売日:2019年09月03日

東京會舘とわたし 下 新館辻村深月

定価:本体730円+税発売日:2019年09月03日


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