紀の字屋で働くのは、世間ではあぶれもの、役立たずと見られている人間ばかりですが、皆それぞれ良い仕事をします。結末は決めずに書いてましたが、清七が最後に誰と一緒になるのかは、自然に決まりましたね。
一番印象に残っているエピソードは、第四巻の「栗めし」に出て来る父子。私自身、高知の田舎育ち。栗が大好きで、秋になると必ずつくる栗めし。書きながら胸がつまってきたのを思い出します。
第五巻『雪晴れ』で、襲われて消息を絶った父親を捜しに、清七は飛騨へ向かいます。飛騨は、昔から幕府の御林があり、大変歴史のある場所。影の悪人・勘定奉行の谷田部が飛騨でどんな悪巧みをしていたか。清七は江戸を離れ、その後実家とどういう方向で納まるのか。話がかなり大がかりになりましたが、書いているときは、新鮮な気持ちでした。
このシリーズは、これまでの私の作品のなかでは、初めての連続もの。毎回、前巻をしっかり読みなおしてメモをして、どこまで展開できるか組立ててから、書き始める。大変なことも沢山ありましたが、本当に書いてよかったと思えるシリーズでした。是非、皆さんに読んでいただきたいです。
藤原緋沙子(ふじわら・ひさこ)
高知県生まれ。小松左京主宰の創作教室「創翔塾」出身。細やかな人情味あふれる物語で人気を博す。著作に「隅田川御用帳」「橋廻り同心・平七郎控」「藍染袴お匙帖」「見届け人秋月伊織事件帖」の各シリーズや、『坂ものがたり』『茶筅の旗』『番神の梅』『龍の袖』などがある。
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