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戯曲 変半身(かわりみ)

戯曲 変半身(かわりみ)

松井 周

文學界1月号

出典 : #文學界

「文學界 1月号」(文藝春秋 編)

右手を食べられてしまったポーポー様は、

「もうそのへんでいいだろう」と玉をたしなめます。

玉は神様にボンボンと名付けられます。

ポーポーとボンボンはとても仲良くしていました。

「いるかい?」

「いるよ」

「行くかい?」

「行くよ」

「来るかい?」

「来るよ」と離れていても近くにいても声を掛け合いました。

二人は遊んでばかりいました。

眠る必要もないし、食べなくても生きていられます。

なぜなら神様だからです。完全体なのです。

けれど、ある時ボンボンはどうしても好奇心を抑えきれず、

ポーポーの眠っているスキを狙って、左手も食べてしまいます。

それから角をかじり、さらに食欲が増し、右足を食べていたボンボンは、

お腹が痛くなってしまいます。糞詰まりです。

何故ならお尻の穴がなかったからです。ボンボンは言います。

「どうしよう。お腹が痛くて死にそうだ」

ボンボンはお腹が大きく膨らんでいます。

ポーポーは悲しくなりました。

「なぜ私を食べた? これではどうにもできない」

「どうすればいい?」ボンボンは苦しみながら聞きます。

「仕方ない。これで穴を開けよう」

とポーポーは下半身のとんがった部分をさらにとんがらせます。

「ただし、これで穴を開けたら君と私は一緒にいられない」

「どうして?」

「君に穴を開けたらその穴と口がつながってしまう。そうしたら、もう何かを食べてもそれが下から形を変えて出てきてしまうんだ。もう完全ではいられない」

「そんなことって」ボンボンはそう言いながらさらに苦しみます。

「よしわかった!」ポーポーは思いついたようです。

「君に穴を開けたら、今度は私に君のとんがった部分で穴を開けてくれ。

そうすれば一緒になれる」

「よしわかった。とにかくはやくやってくれ」

ポーポーは大きくなったトンガリをボンボンのお尻に突き刺し、

口の部分まで貫き、そして抜きました。

文學界 1月号

2020年1月号 / 12月7日発売
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