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戯曲 変半身(かわりみ)

戯曲 変半身(かわりみ)

松井 周

文學界1月号

出典 : #文學界

「文學界 1月号」(文藝春秋 編)

するとどうでしょう。開けた穴から大量の水がこぼれます。

これが海になりました。

「もうひとさしお願い」

ポーポーが突き刺します。

次に石が生まれます。これが日本です。

「もう一丁」

続いて生まれたのがイルコ。これは海に落ちてしまい、消えてしまいます。

魚ともイルカの先祖とも言われます。

「もう一丁」

次に女。

「もう一丁」

刺す度に、草、虫と生まれます。

もう出てこないことがわかると、

「あースッキリした」ボンボンはそう言いました。

すると、すっかりしぼんで小さくなったボンボンの身体がものすごい速さで日本をめがけて落ちていきます。

慌ててポーポーはボンボンを助けようとしましたが、

ボンボンに食べられてしまったために差し伸べる手がありません。

ボンボンは真っ逆さまに日本に落ちていき、男となりました。

ポーポーは言いました。

「いつか迎えに行くからね」

そう叫んだポーポーの声も、もうボンボンには聞こえませんでした。

こうして日本という国と生き物がうまれたのです。

 

 男、礼をする。

 

 暗転。

 

(1) レアゲノム・プロジェクト

 

 「山のもん」の集会所。

 寄せ集めのイスや長机がある。

 コンクリートの壁に囲まれている。

 ある時代にトーチカとして使われた場所を改装している。

 ところどころに発掘の道具や祭の太鼓などが置いてある。

 倉庫でもある。

 上手は外に通じる入り口。下手奥に別のドアがある。

 夏の夜。

 

 高城秀明、田部草太、尾形祐美、比留間ルイ、丸和玲香がいる。

 草太はテーブルに突っ伏している。

 丸和、しばし上を向いて考え事をしている。

 

丸和    ……逃した?

ルイ    ……はい。

文學界 1月号

2020年1月号 / 12月7日発売
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