書評

この語り手、信頼できないが……――ある奇妙な「覗き魔」の物語

文: 青山 南 (翻訳家、エッセイスト)

『覗くモーテル 観察日誌』(ゲイ・タリーズ)

『覗くモーテル 観察日誌』(ゲイ・タリーズ)

 ……あなたがアメリカ全土のセックスについて取材し、高まる期待のなかで近々刊行予定の『汝の隣人の妻』において研究成果を発表されるとうかがい、わたしの手もとにある重要な情報が、ご高著や次作以降のご著書の内容に寄与するのではないかと感じるようになりました……

 速達の主はコロラドのモーテルの経営者で、利用者の行動を観察記録してきたというのである。モーテルの経営を始めたのは十年以上も前のことだったが、その目的は利用者を観察するためで、彼らが部屋でしていることをずっと天井裏から覗いてきたという。

 タリーズは、犯罪に加担することになるのでは、と心配にもなったが、とりあえず話を聞きに出かけた。速達の主はジェラルド・フースといい、年の頃は四十代半ば、角縁のメガネをかけたごく普通の男で、ポケットから紙きれを取りだすと、この誓約書にサインしてほしい、と言った。かれの名前は出さない、モーテルの場所は特定しない、といった事柄が書いてあった。タリーズは、会う前から、この人物のことはネタにしないと決めていたので、その場でサインした。

覗くモーテル 観察日誌ゲイ・タリーズ 白石朗訳

定価:本体870円+税発売日:2020年01月04日


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