今回の日本語版は、〔訳者付記〕にもあるように、その初版を底本としつつ、著者からの手書きの訂正と、著者のノートを加えたものである。著者のノートの中でタリーズは、「ワシントン・ポスト」の疑問点についてわざわざこう反論している。フースが一九八〇年、アール・バラードという男に売り払った後もバラードの厚意でモーテルには出入りできた、それをバラードとフースに取材のうえ確認をした、と。
タリーズの手書きの訂正は、「ポスト」が明らかにした一九八〇年からの所有権の移転を誠実に反映したもので、ごくわずかなものである。
タリーズは、一九七〇年、『有名と無名』(沢田博訳 青木書店)という著書の「著者の覚書」で、「ニュー・ジャーナリズム」についてつぎのように書いている。タリーズの『汝の父を敬え』(新潮文庫)の「訳者の覚書」で常盤新平が紹介している文章を拝借すると――
「ニュー・ジャーナリズムはしばしば小説のように読めるけれども、小説ではない。それは、確認できる事実のたんなる寄せ集めや当事者の発言の引用、過去の形式に執着した統合的なスタイルの使用によるものより大きな真実を追求するが、しかし最も信頼できるルポルタージュと同じように信頼できるものであり、また信頼できるものであるべきなのである。」
「私は場面全体や台詞、雰囲気、ドラマ、葛藤を吸収するようにつとめ、私が書こうとする人物の観点から書いて、私が叙述する場合、対象となる人物が考えていることがらまで可能なかぎり明らかにしようとする。対象となる人物が考えている内容を把握することは、もちろん対象の全面的な協力がなければ、不可能である。」
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