書評

この語り手、信頼できないが……――ある奇妙な「覗き魔」の物語

文: 青山 南 (翻訳家、エッセイスト)

『覗くモーテル 観察日誌』(ゲイ・タリーズ)

『覗くモーテル 観察日誌』(ゲイ・タリーズ)

 モーテルは二十一室あり、そのうちの十二室の天井に覗き穴が設けてあった。チェックインをすました客が部屋に向かうと、興味をそそられるカップルであればとくにあわててフースは天井裏にあがり、該当する部屋の上に駆けつけた。そして、薄暗がりのなかで下界を観察しながらメモをとり、しかるのち、それをべつな紙にきちんと記録した。

 その晩、タリーズはフースと天井裏にのぼって、覗きを堪能……そして翌朝、フースから『覗き魔の日記』と名付けられた分厚い紙の束を見せられた。それからまもなく、タリーズのもとに『日記』のコピーが順次、届くようになる。誓約書をかわしていたので『汝の隣人の妻』にそれが反映されることはなかったが、『汝』が刊行されたあともフースはなにかと連絡をとってきた。

 二〇一三年、フースから、すべて公けにしてかまわない、との連絡がタリーズに来た。出訴期限法というものがあるから覗かれていた者たちが訴えてくることもないだろう、とフースは判断したのである。フースは八十歳にちかづき、タリーズも八十歳をこえていた。

 本書は、その膨大な『覗き魔の日記』を引用しながら、アメリカの性革命の結果おこったグループセックスや異人種間セックスやレズビアンなどのさまざまな性のかたちを天井裏から見つめる趣向になっている。殺人事件まで目撃したと日記にはある。さらに、このモーテル経営者がなぜ「覗き魔」となったのかが、幼少期の叔母への憧憬とともに綴られる。フースとタリーズの三十年以上に及ぶ交流も描かれる。

覗くモーテル 観察日誌ゲイ・タリーズ 白石朗訳

定価:本体870円+税発売日:2020年01月04日


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