本書のなかでタリーズは、自分はフィクション作家ではないので、「なにひとつ想像にまかせず、(略)きっちり裏づけのとれる本名とまぎれもない事実のみを書くか、そうでなかったら一本の記事も書かない」(二一七ページ)と銘記している。その通りだろう。しかし、「対象となる人物」の「考えていることがら」をその人物の「観点から書く」というニュー・ジャーナリズムのみごとな一冊になっていることはまちがいない。「日記」という媒体に目をつけたのは正解だった。「信頼できない語り手」だから、日記には夢想も混じっているかもしれない。しかし、そういうところにかれの「真実」がある。かくして本書は、四十年にわたるアメリカ社会の変遷を描くと同時に、その時代を生きてきた奇妙な男の内面の物語にもなっている。
スピルバーグとメンデスによる映画化は、二〇一六年十一月に突然、流れてしまった。本が出る少なくとも一年以上前よりドキュメンタリー映画が、タリーズの協力のもとに撮影されていたのである。そのことをメンデスは知らなかった。その編集途中のフィルムを見て「完璧な出来で、これ以上のものを我々に作ることはできない」と語ったという。『覗き魔』というその映画は、二〇一七年にネットフリックスで配信された。監督はジョシュ・コーリーとマイルズ・ケインのふたり。邦題は『覗くモーテル』。
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