「この本は言ってみれば、『スター・ウォーズ』なんですよ。エピソード5/帝国の逆襲があったり、エピソード6/ジェダイの帰還までつづくはずですよ」
菊池寛の胸像のあるロビーで、「週刊文春」編集部(当時)の目崎敬三が私に熱く語りかけた。
本というのは、1996年初冬、飛鳥新社から出した『裏本時代』(現在、幻冬舎アウトロー文庫に収録)という書き下ろしノンフィクションノベルのことで、翌年、「週刊文春」のぴーぷる欄の近況インタビューを目崎敬三から受けたときに飛び出した言葉だった。
『裏本時代』は、私がフリーランスの物書きをやりだしてからしばらくして、ある不思議な人物と遭遇したことを基軸にして、綴ったものだった。
1980年代初頭、突然、性器や交接シーンが無修正のカラー写真集が新宿歌舞伎町のアダルトショップで密売されるようになり、ひそかなベストセラーになった。
裏本と呼ばれる原価数百円の無修正写真集が小売価格で1万円以上するのだから、儲けは驚異的な数字になる。
印刷工場をキャッシュで買い取り、印刷・製本・流通・販売をすべてこなしていた会長の儲けは天文学的数字に達していた。
「流通を制する者は資本主義を制する」
会長の言葉は、大量消費社会の真理を言い当てていた。
地下経済で蠢(うごめ)くとてつもないスケールの話と、会長のユニークなキャラクター、それに青臭い私の野望を詰め込んだ『裏本時代』は、一部に熱狂的な読者を生んだようで、読後感を吐き出しに私の仕事場にやって来る愛読者がやたらと増えた。
しかし『裏本時代』は序章にすぎなかった。
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猥褻図画販売容疑で逮捕され、その後無一文で釈放された会長は、今度は無謀にもあらたに勃興してきたアダルトビデオの監督になった。監督名は、村西とおる。
会長の野望に追従しながら頓挫した私は、半年ほど虚脱状態となっていた。そこに、助監督として手伝ってくれ、と村西とおるから声がかかり、私は物書きを生業にしながらも、片足はAV業界に突っ込み、またもや追従することになる。
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