インタビューほか

<真山仁インタビュー>もし認知症が「治る」と言われたら?

「オール讀物」編集部

『神域 上・下』(真山 仁/毎日新聞出版)

<真山仁インタビュー>もし認知症が「治る」と言われたら?

最先端治療は、神への冒涜か?

『神域 上・下』(真山 仁/毎日新聞出版)

 “再生しない”はずの脳細胞を蘇らせる人工万能幹細胞「フェニックス7」の開発に日本人研究者が成功した。実用化に至ればアルツハイマー病で破壊された大脳細胞を再生できる。しかし、いくら動物実験で成果をあげても、人への治験に政府の承認がおりない――。

 真山さんの新著『神域』は、「認知症克服」の夢を追う科学者、実業家、政府関係者らの奮闘と欲望とを描ききった、究極の医療ミステリーだ。

「最初のきっかけは小保方さん事件です。STAP細胞の騒動を見て、日本の生命科学の最前線で何が起きているのかと取材を始めました。すると、専門家がSTAP細胞を冷ややかに見ているのは当然としても、意外なことに、いまもっとも実用化が期待されているiPS細胞についても、多くの生命科学者が『医者はすぐ人に使おうとするが、人の身体はそんなに単純なものじゃない』と極めて慎重に捉えていることがわかってきたのです。

 現在、医療だけでなく、生命科学、コンピュータサイエンスが治療に関与する時代になりつつある。ところが、医者と科学者とでは、生命に対する感覚が異なるんですね。『治してなんぼ』の医者に対して、科学者は『生命とは何か、免疫とは何か』などを真摯に考える傾向にある。この両者の隔たりの中にこそ、小説のテーマがあると思うようになりました」

「フェニックス7」はホンモノか? 人に投与しても安全なのか? 日米両政府を巻き込んでの激論がかわされる背後で、研究所の存在する地方都市では、不審な老人の死が相次いでいた。

 通常、認知症患者が徘徊し行方不明になっても、多くは近隣で発見され自宅に戻るケースがほとんど。ところがこの都市では、行方不明後、遺体で発見される高齢者が増えていたのだ。驚くべき事件の展開に、読者は言葉を失うことだろう。

「麻酔ってどうして効くと思う?」

 真山さんは、取材した医療関係者から、こう問われたことがあるという。

 実は麻酔が人体に作用するメカニズムは解明されていない。投与する量に応じて、鎮静、催眠、死、と反応が変化することが経験的に知られているだけ。人間の身体にはまだ人智の及ばない「神の領域」が残されており、中でも脳細胞はその最たるものといえる。

 だが、たとえ「神域」への冒涜であろうとも、もし認知症が“治る”と言われたら、どんなリスクを伴う治療法でも試したい、自分の脳で実験してほしいと望む人は後を絶たないだろう。

「私はこの小説で、『もし禁断の果実があるなら、あなたは食べますか?』と、多くの人に問うてみたいのです」


オール讀物3・4月合併号より


まやまじん 一九六二年生まれ。同志社大学法学部卒。新聞記者、フリーライターを経て二〇〇四年『ハゲタカ』でデビュー。冨永検事シリーズ『墜落』をオール讀物に連載中。

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