- 2019.12.23
- 書評
元NHK検察担当記者も思わず唸る、リアルを超えた社会派エンターテイメント
文:鎌田 靖 (元NHK解説副委員長 フリージャーナリスト)
『標的』(真山 仁 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「ようやくこれで食えるようになった」
二〇〇七年六月、東京渋谷の高級ホテルの宴会場。担当したNHKスペシャル「ワーキングプア」という番組がその年度の優れた番組に与えられるギャラクシー賞を受賞した。同じくNHKの土曜ドラマ「ハゲタカ」も受賞。原作はもちろん真山仁だ。たまたま「ワーキングプア」を共に制作したNHK社会部の後輩記者は岐阜放送局に勤めていた新人記者時代、やはり中部読売新聞(中読<ちゅうよみ>と呼んでいた)岐阜支局の新人記者だった真山と親しかった。華やかな授賞式の会場で久々に再会した二人。その真山が後輩記者にもらしたのが冒頭の言葉だ。
真山仁という小説家のことを知ったのはこれが最初である。二つの理由で近しい感情を抱いた。私も新人記者時代を名古屋で過ごしたのでよく知っているのだが、当時中読は記者クラブに入会することができず(地元紙との間で様々な事情があったが割愛する)、「なにくそ」という思いもあってかとても熱心で優秀な記者が多かった。真山もその一人だったようだ。フットワークが軽くて、人の懐に飛び込むのがうまく、よく抜かれましたと後輩記者は言っていた。新人時代にお世話になった中読の先輩記者を真山と重ねて、私は勝手に親しく感じていた。
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