書評

元NHK検察担当記者も思わず唸る、リアルを超えた社会派エンターテイメント

文: 鎌田 靖 (元NHK解説副委員長 フリージャーナリスト)

『標的』(真山 仁 著)

『標的』(真山 仁 著)

「ようやくこれで食えるようになった」

二〇〇七年六月、東京渋谷の高級ホテルの宴会場。担当したNHKスペシャル「ワーキングプア」という番組がその年度の優れた番組に与えられるギャラクシー賞を受賞した。同じくNHKの土曜ドラマ「ハゲタカ」も受賞。原作はもちろん真山仁だ。たまたま「ワーキングプア」を共に制作したNHK社会部の後輩記者は岐阜放送局に勤めていた新人記者時代、やはり中部読売新聞(中読<ちゅうよみ>と呼んでいた)岐阜支局の新人記者だった真山と親しかった。華やかな授賞式の会場で久々に再会した二人。その真山が後輩記者にもらしたのが冒頭の言葉だ。

 真山仁という小説家のことを知ったのはこれが最初である。二つの理由で近しい感情を抱いた。私も新人記者時代を名古屋で過ごしたのでよく知っているのだが、当時中読は記者クラブに入会することができず(地元紙との間で様々な事情があったが割愛する)、「なにくそ」という思いもあってかとても熱心で優秀な記者が多かった。真山もその一人だったようだ。フットワークが軽くて、人の懐に飛び込むのがうまく、よく抜かれましたと後輩記者は言っていた。新人時代にお世話になった中読の先輩記者を真山と重ねて、私は勝手に親しく感じていた。

標的真山仁

定価:本体780円+税発売日:2019年12月05日


 こちらもおすすめ
書評エンタメを通じて「正義とは何か」を問う作家真山仁の傑作(2016.09.13)
インタビューほか真山仁 デビュー10周年『売国』で始まる新たな挑戦(2015.01.28)
書評息づまる本格的謀略小説の誕生(2014.12.01)
インタビューほか真山仁、『売国』を語る(2014.10.24)
書評解説――権力はなぜ腐るのか(2014.01.09)