血沸き肉躍る壮大な戦国絵巻
「デビュー作の『宇喜多の捨て嫁』で戦国三大梟雄のひとり、宇喜多直家を書いたので、のこる松永久秀か斎藤道三のどちらかを書いてみませんか、という依頼が執筆のきっかけでした」
本書『まむし三代記』は、美濃の「毒まむし」と恐れられ、司馬遼太郎の『国盗り物語』にも描かれた道三とその父・法蓮房、さらに息子の義龍までの三代にわたる物語だ。
「今年の大河ドラマ『麒麟がくる』では、本木雅弘さんが道三を演じていてめちゃくちゃ格好いいですよね。頑張ってほしいと応援しているんですけど(笑)、最近の研究では、美濃の国盗りは法蓮房との親子二代で完成したという説が有力です。ただ文献をひたすら読んでも、法蓮房がどうやってのしあがっていったのか、肝心なところは分からない。結局、自分が楽しんで書くしかないだろうと肚を決めました。さらに途中で同時代の有名な医師・曲直瀬(まなせ)道三が、深芳野(斎藤道三の正妻)を診察したという記録に目が留まり、そこから応仁の乱で荒廃した『国を医(なお)す』というコンセプトが浮かんできたんです」
本作はもともと『蝮三代記』と題して小説誌で連載され、原稿用紙約千枚に及ぶものだった。単行本化に向けて改稿を進めていく中で気づいたのは、三代記をそれぞれの視点で書くと一冊には満足に納められないということ。そこで急遽、道三の首を獲ったといわれる小牧源太という武者を視点人物とし、まったく新しい『まむし三代記』を書きおろした。
「作中にあえて応仁の乱のパートを入れ込み、松波高丸という道三の祖父にあたる人物も登場させました。源太もそうですが、大きな事件に巻き込まれた無名の人の力強さ、したたかさを描きたいと思いました」
高丸が戦火で焼き払われた京市中で拾い集めていたものが、やがて法蓮房が作り上げようとした「国滅ぼし」なる凶器となっていく。その核心を知った道三と義龍は……。
「後世で斎藤道三は血も涙もないといわれ、下剋上のために毒殺のような卑怯な手段も用いたようです。一方で茶の湯をこよなく愛し、彼が作った茶室の普請図を見ると、庭に桜が植えられています。西行の歌を好み、文化人としても優秀だった。戦乱中には息子を伊勢や知多半島に避難させたことを示す書状も残っています。この二面性も魅力ですね」
最終的に道三と義龍は父子で争う。著者はそこに独自の解釈を加えつつ、血沸き肉躍る壮大な戦国絵巻を、見事に完成させた。
きのしたまさき 一九七四年奈良県生まれ。二〇一二年「宇喜多の捨て嫁」でオール讀物新人賞。一九年『天下一の軽口男』で大阪ほんま本大賞、『絵金、闇を塗る』で野村胡堂文学賞。
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