2018.05.30 インタビュー・対談

<木下昌輝インタビュー> 民を案じる楽土のために

聞き手: 「オール讀物」編集部

『宇喜多の楽土』

『宇喜多の楽土』(木下昌輝 著)

 備前(岡山県)で下剋上と暗殺を重ね、“戦国の梟雄”と恐れられた宇喜多直家を描いた『宇喜多の捨て嫁』で鮮烈なデビューを飾った木下さん。今作の主人公は、その息子の宇喜多秀家だ。

 「秀家には、直家のような謀略の才はありませんでした。また、間諜の疑いがあるというだけで小者を殺せるような冷徹さも持ち合わせていなかった。天下の大勢を見ても、主家である豊臣秀吉に逆らうことはできず、関ヶ原の戦いでは西軍につきながらも、徳川家康の勝利はほぼ確実でした。そのような不利な状況下でこそ、人間の真価が明らかになると気が付いたことが、秀家の人生に興味を持ったきっかけです」

 宇喜多家の当主としての秀家は内憂外患に悩む日々だった。あるとき、敵対する毛利家と所領を争う秀家は、秀吉の朱印の力を借りる。結果として係争地は守られたものの、秀家の家中における統率力は弱くなる。家臣たちは独力で土地を維持できなかった秀家への信頼を失い、秀吉こそ盟主と考えるようになるのだ。さらに、秀吉の命令で朝鮮出兵や検地を行い、宇喜多家は疲弊していく。追い打ちをかけるように、家康の計略によって宇喜多家は分裂の危機に陥る。

 「秀吉からは駒として使われ、家臣からは恃みにされない秀家の姿は、まさに現代の中間管理職の悲哀と重なりました。一方で、秀家の従兄である宇喜多左京は、目的のためには人殺しもいとわない残酷な人物です。分裂騒動の際に、秀家の嫡男の後見人に左京を指名するよう家康から求められ、秀家は苦悩します。ただ、左京も生まれながらに殺人者であったわけではありません。人質として毛利家に送られ、つらい青年期を過ごしたことが影を落としています。秀家だけでなく、左京もまた、戦国の世の被害者なのです」

 政争の中にある秀家だが、“宇喜多の民が安んじて暮らすことのできる楽土を作る”という父との約束を忘れることはなかった。妻の豪姫もその考えの理解者であり、彼を支える。しかし時は流れ、関ヶ原の戦いが起こる。秀家は小早川秀秋の主張した布陣で徳川勢を待ち受けるが、小早川は寝返ってしまう。圧倒的強者の徳川家康に敗れる秀家は、彼が求める楽土にたどり着くことができたのだろうか。

 「関ヶ原からの敗走中のできごと、そして流刑となった八丈島での嫡男や従者との生活は、彼のそれまでの人生の行いが報われるときでもあります。乱世の中にあってどのような人生が幸福と言えるのか、私も考えながら執筆していました」


きのしたまさき 一九七四年奈良県生まれ。二〇一二年オール讀物新人賞受賞。一五年『宇喜多の捨て嫁』で高校生直木賞など受賞。一七年『敵の名は、宮本武蔵』で第一五七回直木賞候補。

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