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「津波監視システム」を実現せよ! 変動帯に生きる日本人必読の理系小説

「津波監視システム」を実現せよ! 変動帯に生きる日本人必読の理系小説

文:巽 好幸 (神戸大学海洋底探査センター教授・センター長)

『ブルーネス』(伊与原 新)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ブルーネス』(伊与原 新)

 頻発する地震や火山噴火を経験してきた日本人は、八百万神(やおよろずのかみ)信仰で象徴されるように、荒ぶる自然を神として畏敬をもって接し、このような試練と共に暮らしてきた。そして仏教が伝来するとその命題である「無常観」を受け入れ、さらにはそれを儚(はかな)さに対する「美意識」へと昇華させてきた。こうして現代日本でも、地震や津波、それに火山災害に度々見舞われながらも、ある種の「諦念」を持って、あるいは恣意的に試練に蓋をするように今日を生きることに集中している。さらに悪いことに、人間は「自分だけは大丈夫だろう」と思い込む無謀な正常性バイアスに溺れやすい。

 しかし変動帯日本列島が、寺田寅彦が言うように「厳父のごとき厳しさ」の顔を持つことは明瞭な科学的事実でもある。つまり私たちはいつか必ず超巨大災害に見舞われる運命にある。全く幸運にも自らが遭遇しなくとも、次の世代、さらにその次の世代の難儀を最小限に抑える術(すべ)を考えることこそ、今の世代の責任であろう。この作品は、私たち「変動帯の民」が覚悟を持って試練に備えることの大切さを説いているように思える。

ブルーネス
伊与原新

定価:1,056円(税込)発売日:2020年04月08日

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