不動産売買を餌に巨額の金を騙し取る「地面師」という存在をご存じだろうか。近年では2017年に積水ハウスが約55億円を詐取される事件があり、世間を騒がせた。そのアンダーグラウンドな世界をリアルに描き出した『地面師たち』が話題を呼んでいる。著者の新庄耕さんは不動産会社のブラックな労働実態を描いた『狭小邸宅』でデビュー。その後も社会の暗部をえぐり出してきたが、今回はなぜ地面師をテーマに選んだのか?
「積水ハウスの事件は大きなきっかけでしたが、地面師の手口ってすごくアナログなんですよ。そこが面白かった。この情報化社会に、本物の地主に似ている人を探してきて、プロフィールを暗記させて、偽の身分証を作って……。そういうところに人間臭さを感じてこれは小説になるぞ、と思いました」
この物語の主人公は、ある事件で母と妻子を亡くし心にトラウマを抱えた辻本拓海だ。彼は大物地面師・ハリソン山中の下で不動産詐欺を行っていた。彼らが狙いを定めたのは、高輪ゲートウェイ近くの市場評価額百億円にも上る物件だった……。この小説の魅力は、新庄さんが感じた“人間臭さ”をあらゆる場面で追求しているところだ。詐欺を仕掛ける方も騙される方も、私たちと変わらない普通の人間であることを教えてくれる。
「(本物の地主の)なりすまし役が契約当日に逃げ出してしまったりとか、それで別人が急遽その役を担って詐欺が成功してしまったとか、結構脱力してしまうような実話もあるんです。みんながプロフェッショナルに淡々と仕事をこなしているわけではなく、喜劇的なドタバタも実際に起こっている。事件の中に人間的おかしみがにじみ出てくるのも地面師に惹かれた理由の一つです」
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