本作で拓海は、何かに駆り立てられるように地面師の仕事にのめり込んでいく。ギリギリの精神状態だからこその行動や決断から、読者は目が離せなくなる。このように新庄作品では常に、自分を限界まで追い込む人物が出てくるが、それは著者自身の来歴も無関係ではないだろう。
「私がすごく影響を受けたのが沢木耕太郎さんです。沢木さんはよく『淫する』という言葉を使っていて、社会的に大成しなくても熱くなれるものがあったらそれはそれで美しい、といった趣旨のことを言っている。私が最初に入ったのはリクルートという会社でしたが、働き方がおかしかった。私の上司は、朝の4時まで飲んで7時には出社してバリバリ仕事して成果も出しているような人でした。これはもう自分には真似できないと思って転職したんですが、次の会社は逆にまったりしていて。課長クラスが車を売るか売らないかという話を一日中して定時に退社する。結局僕は熱くなれるものも見つけられず、かといってまったりな会社にもなじめなかった。中途半端な人間だなあとつくづく感じて、せめて小説の中では熱くなりたいと思って、その思いが主人公に投影されているのかもしれません」
新庄さんは、次の作品ではどんな“人間臭い”人物を描こうとしているのか?
「以前『サーラレーオ』という麻薬をテーマにした作品を書きましたが、それとは別の角度で麻薬の話に再挑戦したいと思っています。やっぱり麻薬を密輸する犯人って面白いんですよ。ゴルフのドライバーのヘッドに入れて密輸するとか、普通じゃ考えられないような方法を取る。麻薬は人間の欲望と密接に結びついてますから、掘り下げ甲斐があるなとワクワクしています」
しんじょう・こう 1983年京都市生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年「狭小邸宅」で第36回すばる文学賞受賞。著書に『狭小邸宅』『ニューカルマ』『カトク 過重労働撲滅特別対策班』『サーラレーオ』がある。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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