コラム・エッセイ

<エッセイ>崎山蒼志「十歳、食べられなかった私の話」

崎山 蒼志

別冊文藝春秋 電子版31号

「別冊文藝春秋 電子版31号」(文藝春秋 編)

 自分を心配する周りの空気や、意識的か無意識かにかかわらず自分の心に生じた不安や畏怖に押し潰されそうになり、もう泣きそうになっていました。

 そういった私の状況を察知した当時の担任の先生は、給食中にもかかわらず私に駆け寄りました。そしてある言葉を発したのです。

「それは、あなたが悪いんだからね」

 私の拒食状態を知っていた先生だからこその一言でした。

 そのあまりにも愚直な言葉に最初は深く傷つきました。「なんでまたここにきて、責められないといけないのだ」と。ですがその後段々と、その言葉に救われるようになります。

 その頃、自分の拒食状態が悪化する一方、「この現状を変えたい」という思いが私のなかで膨張していました。そして、数週間後の眠れない夜、自分が傷ついたこととして脳に浮いていた先生の言葉をなんとなく思い返したとき、「はっ」と思ったのです。

「そうか、拒食状態を招いているのは全部現在の自分の感情、感覚であり、過去の出来事は関係ないんだ。ずっとこのままなわけじゃない、別に大変なことじゃないんだ」

 今まで強張っていた体が、少しほどけたような感覚がありました。

 混沌とした私の中に先生の言葉は「俯瞰」を与えてくれたのです。強いて言うならば風穴を開けてもらったようでした。先生がそこまで考えて言ったのかはわかりませんが、私にとってはとても大きな一言となりました。

 家族の支えもあり次第に拒食状態はよくなっていきます。そしてその先に、今の私がいます。

「自己を俯瞰すること」は自分を縛る思い込みからの脱却方法だと思います。そのことに気づくきっかけを与えてくれた拒食の経験は、私にとって大切な期間だったのかもしれません。今、やっとそう思えます。


さきやま・そうし 二〇〇二年生まれ、静岡県浜松市在住。シンガー・ソングライター。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、ギタープレイでまたたく間に話題になる。
 ある朝、起きたらTwitterのフォロワー数が五千人以上増えていて、スマホの故障を疑った普通の高校三年生。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日


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