- 2020.05.28
- インタビュー・対談
<額賀澪インタビュー>“できない”アラサー男子にだって、青春や成長はある!
「オール讀物」編集部
『できない男』(額賀 澪)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
せめて《仕事ができない》を卒業したい
これまで吹奏楽や駅伝など、様々なテーマで青春小説を手がけてきた額賀さんが新たに描いたのは、アラサー男子が主人公のお仕事小説だ。
恋愛経験ゼロ、青春時代を日陰で過ごした芳野荘介(28歳)は、東京から二時間の地方都市で、小さな広告会社のデザイナーとして働いている。そんな彼が、山と田圃しかない地元・夜越町の農業テーマパークのブランディングに“地元枠”として関わることに。そこで出会ったのが、東京で超一流クリエイターの右腕として活躍する河合裕紀(32歳)だった。
「実は、書き始めた頃は仕事よりも恋愛の要素のほうが強めでした。でも、荘介が恋愛できない理由を掘り下げていくと、学生時代に“青春”できなかったせいで自己肯定感が低いことが原因だと気づいたんです。それを高めるためにはまず仕事で頑張るしかない、と思って、お仕事小説になりました」
恋愛できない荘介は、せめて《仕事ができない男》を卒業したいと、テーマパークのプロジェクトで奮闘する。一方で裕紀は、一見有能な“リア充”だが、恋愛も仕事も新しい冒険ができない《覚悟できない男》だった。
「学校ではクラス替えがあったり文化祭があったりして半ば強制的に環境に変化がありますが、大人になるとそういう機会も減ってしまいます。また、都会に住んでいるといつまでも二十代の感覚でいることが許されるので、青春を上手に過ごしてきた裕紀は、今の状況に甘えてしまい、自分で新しい一歩を踏み出すことができないんです」
そんな荘介と裕紀が、ある広告の企画でライバルの立場に。それぞれが自分の「できない」ことに向き合いながら格闘し、成長していく様は、まさに大人の青春小説だ。
「私も今年三十歳になりますが、この年齢になると、進む道も価値観も、人によってどんどん差が出てくると感じます。それに、自分で動かない限り環境が変わらないので、人生を変えるのが十代の頃より大変です。そんな年齢であるアラサー男二人が、今から青春できるのか。そんなことを考えながら書きました」
アラサーなのに、いや、アラサーだからこそ、二人が悩み、迷う姿は時にイタくて、カッコ悪い。だが、成長した二人が選びとる道は、きっと読み手の想像を飛び越えてくるだろう。
「私の中で、青春=全力疾走というルールがあるんです。今回は、アラサーなりの全力疾走を描きました。読み終えた後に、自分も明日から仕事を頑張ろう、と思ってもらえたら嬉しいです」
ぬかがみお 一九九〇年茨城県生まれ。二〇一五年『屋上のウインドノーツ』で松本清張賞、『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。著書に『風に恋う』『競歩王』等。