
全日本コンクール出場に向け猛練習を重ねる千間学院高校・吹奏楽部。そこへ、甲子園を目指す野球部から緊急の応援依頼が。部長の瑛太郎はどうする?
<部活×青春の物語をお楽しみください!>
「陽介君のお母さんから聞いたよ? 八対〇で勝ったんでしょ? 凄いじゃーん」
夕飯の席で生姜焼きにかぶりつく大河に、母はテレビを点けながら聞いてきた。
「といっても、まだ二回戦だけど」
「ねー。まだまだ試合やんなきゃいけないんだもん、みんな大変よね」
大河の通う千間学院高校、通称・千学の野球部は今日、全国高等学校野球選手権大会――「夏の甲子園」を目指す埼玉大会の二回戦に挑んだ。結果は、母の言う通り八対〇で大勝した。なかなか気持ちのいい試合だった。
「俺も、頑張ってみんなのこと応援するよ」
口の下にタレがついた。指の腹で拭って舐めると、母は「そうね」と言ってテレビに視線をやる。すると当然時計を見て、慌てた様子でチャンネルを変えた。
「どうしたの?」
「今日テレビに千学が出るの知らないの? 吹奏楽部にテレビが密着してるんだって」
「ああ、そういえば、そんな話聞いたかも」
新学期が始まった直後から、テレビ番組のスタッフがカメラを抱えて歩き回っているのを見かけたことがある。
「しかも今日で終わりじゃなくて、秋の全国大会まで何回かに分けて放送されるんだって」
「それ、全国大会に行けたらって話でしょ?」
吹奏楽部が全国に行ったなんて話、これまで聞いたことがないし、強いのか弱いのかも大河にはよくわからない。
「あ、始まった」
母が前のめりになってテレビを見つめる。大河も食事をしながら横目でテレビ画面を眺めた。『熱奏 吹部物語』というドキュメンタリー番組で、、千学以外の学校も取材しているみたいだ。全日本コンクールに出場するような強豪校から、部員集めに四苦八苦する弱小吹奏楽部まで、いろいろだ。
「あはは、男ばっかりの吹奏楽部だって」
千学の学校紹介が始まって、母が笑う。千学は男子校だ。男子部員しかいない吹奏楽部が一体どんな活動をしているのか。千学はそういうテーマで取り上げられるらしい。
「なんか、色物っていうか、お笑い担当なんじゃないの、うちの学校」
番組の雰囲気的にも、流れ的にも、そんな予感がした。
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