なるほど、ここでのヘンリー・フォンダは、まぎれもなく俊足の持ち主だった。土着のインディアンでさえ追いつけぬほど、しっかりとした下肢に恵まれた男だったからである。そして、フォンダによる伝令を受けた連隊が砦に到着してインディアンを壊滅させることになるのだが、それにしても、必死の長い追跡場面が終わろうとするときに思いもかけず笑いがこみあげてくるとは、いったいどうしたことか。実際、追跡を放棄するインディアンの姿がちっぽけなシルエットとして逆光で捉えられるというこの朝焼けの光景は、滑稽とまではいわぬにせよ、どこかしら何かがおかしいのである。だが、それは、はたして正しい見方なのだろうか。フォードは、ここでコミカルな効果を狙っていたのだろうか。
註
(註1)この作品を公開当時に見たわたくし自身は中学生だったはずだが、その記憶をたどるまでもなく、クラスメートの誰もが、いったいあの無言の追跡場面は何なのだと呟き合ったものだ。中には、テクニカラー色彩顧問のナタリー・カルマス Natalie Kalmus の指示による色彩的な実験ではないかといううがった見方をする幼い仲間もいたが、テクニカラーの全盛期だったので、ナタリー・カルマスの名前ぐらいは中学生でも知っていた。
この続きは、「文學界」7月号に全文掲載されています。
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