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デビュー作で退屈だと罵った地元への償いにこの小説を!

デビュー作で退屈だと罵った地元への償いにこの小説を!

『メガネと放蕩娘』(山内 マリコ)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『メガネと放蕩娘』(山内 マリコ)

 地元で暮らした十八歳までの記憶にある町の姿と、劣化し衰退する一方の現実。私たちは飽きもせずに、こんな話ばかりしている。

「アーケード通りもヤバいですよね。私が高校生のころはけっこう活気あったのに」

――『ここは退屈迎えに来て』
1、「私たちがすごかった栄光の話」より

 

 たった数行で他人事みたいに済ませているけれど、実はこのことが、『ここは退屈~』を書くきっかけの一つでした。

 高校生のころ放課後、毎日のように友達とくりだした街。この場合の街とは、富山駅に隣接したショッピングビルや、富山市の中心部にある繁華街(総曲輪通りと中央通り商店街のアーケード通り周辺、および西町と呼ばれる一帯)のことを指します。わたしはそこで、友達とプリクラを撮ったり、美味しいジェラートを食べたり、レコード屋さんでCDを試聴したり、本屋さんで立ち読みしたり、マクドナルドでだべったり、年上のイケてる人が開いた服屋に出入りしたりして、遊び呆けました。高校を卒業し、大阪の大学に進学してからも、しょっちゅう富山に帰省しては友達と落ち合い、街を歩いたものです。わたしたちは旺盛な物欲に支配された九〇年代の申し子で、買い物依存症の傾向にあり、いつもなにかを欲しがっていました。

 中央通り商店街の端っこに誕生したフリポケこと〈フリークポケット〉にも、当然わたしは足を運び、そこで売られている見たことのない外国雑貨に目を輝かせました。吹き抜けの立派な建物の中に小さなショップが並び、人をわくわくさせる雰囲気が充満したそこは、商店街での独立開業を目指す若者向けチャレンジショップ。当時すでに空き店舗が問題となっていた斜陽の商店街でフリポケをはじめたのが、商店街に生まれ育ったとある姉妹であることを知ったのは、それからずっとあとのことです。

文春文庫
メガネと放蕩娘
山内マリコ

定価:781円(税込)発売日:2020年06月09日

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