思えばそのころは、富山の街のターニングポイントにあたる時期でした。二〇〇〇年代に入るとショッピングモールをはじめ、郊外に大型店ができて人の流れが変わり、商店街から店はどんどん減っていった。友達と車に乗って好きな音楽を流しながらドライブする解放感や、シネコンとフードコートでまったり過ごすショッピングモールの喧騒の陰で、帰省のたびにさびれていく、青春を過ごしたわが街。わたしはそれがさびしくてさびしくて、そのさびしさを誰かと分かち合いたかった。そのことが『ここは退屈迎えに来て』を書く、原動力ともなったわけです。
若さを持て余し投げやりな態度で、さびれた地方都市に生きる女の子たちの姿には、物憂げな美しさがあります。しかしそれが許されるのはせいぜい二十代まで。三十代になっても同じように、たださびしさやせつなさを嘆き合っているのは、醜悪な怠慢である……。年齢や立場が変わったこと、そして地元を「退屈だ」とののしったつぐないとして、もっと実際的な物語を書かねばと思うようになりました。
二〇一四年の連載スタートからほどなく「地方創生」と名付けられた政策が登場、地方からの人口流出と東京一極集中が、国の抱える大きな問題として扱われるようになります。わたしの親の世代には「金の卵」とおだてて、地方から東京に若者を集めたのに、今度は増えすぎたから来るなと……。そして地方における「人口減少の要因は、二十歳から三十九歳までの若年女性の減少」とする言説は、出産に適した年代の女性が街からいなくなると子どもが産まれず、ゆくゆくは自治体が消滅するかもしれない……それは困る! ってことでもあり、なんだかディストピア小説めいた論法に思えました。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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