地方に若者を囲い込むのではなくて、ここにいたい、帰ってきたいと思ってもらうにはなにが必要か? そっちを考える方がよほど建設的です。そしてこれはわたしの場合ですが、放課後を街で過ごした記憶が、時間とともに地元への愛情に熟成されていきました。思い出が、遠くへ行きたい自分と、地元との錨になった。とくに素敵でもない凡庸な青春時代だったけれど、あのなんでもない毎日が、わたし楽しかったんだなぁと、あとからあとから効いてきました。だからわたしに言えるのは、一つだけです。子どもたちに、楽しい思い出を作ってもらおう。大人にできるのは、その場所を提供して、静観することだけ。
〈フリポケ〉を、形は違えど小説のなかに蘇らせ、あちこちに個人的な思い出をちりばめた本書を書くこと自体が、自分にとってのまちづくり体験となりました。これを書いていたとき、わたしはたしかに、登場人物たちと同じように、この街をなんとかしたいという思いに突き動かされていた。街の人に会い、話を聞くのは楽しかった。読み返すと、取材に奔走していた当時の熱意を思い出し、またご無沙汰してしまっているなぁと反省……。こういうほのかな罪の意識は、故郷を離れた人間に、一生ついてまわるのでしょうね。
モデルとなった姉妹をはじめ、取材に協力してもらった人は数知れず。連載時から単行本化、そしてこの文庫化にいたるまで、たくさんの編集者さんにお世話になりました。そしてなにより、この本を手にとってくださった読者の方々――みなさんに、心からの感謝を!
二〇二〇年四月 山内マリコ
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